第6話 面白いとか面白くないとかじゃない
映画が始まるとユキトくんの息を呑む音が聞こえた。
映画は派手な戦闘シーンから始まった。
26年の時を積み重ねたシン・エウァンゲリオンの設定は増えに増え、生物とか化学とかが全くできない私のような人間にはもはや理解できない域に達していた。
それでもセリフを聞き逃すまいと一生懸命耳を澄まし、シーンを見逃すまいと刮目して見た。
隣のユキトくんも真剣なまなざしで見ていたように思う。
映画は思わぬほうに話が進んだかと思うと、衝撃的なシーンや不思議なシーンを重ねに重ねつつ、着実にラストへと向かっていた。
「エウァは面白いとか面白くないとかじゃないでしょ」
ユキトくんの言葉を思い出していた。
面白いかはわからないけれど、何かすごいものを見せられている。
そんな感じだった。
2時間半はあっという間に過ぎ、カタルシスを感じるエンディングを迎えた。
見に来てよかった。
素直にそう思えた。
隣の席からは嗚咽が聞こえる。
ユキトくんも何か思うことがあったのかもしれない。
劇場が明るくなり、背伸びをして隣を見ると――空太郎さんが嗚咽を漏らしながら号泣していた。
さっきのはユキトくんの嗚咽じゃなかったようだ。
「ね、面白いとか面白くないとかじゃなかったでしょ」
「うん。でも私は好きだよ。この映画」
「そっか……」
はにかんだようなユキトくんの表情から映画を楽しめたことが伝わってきた。
映画館のロビーまで来たところで将太郎が大声をあげる。
「おい! お前の姿が見えるし、声も聞こえる!!」
「俺も声が聞こえるようになった!」
泣きながら空太郎さんが同意する。
「どういうこと?」
「なんかユキトくん前よりエネルギーに満ち満ちてない?」
確かに空太郎さんの言うように、なんか生気を感じると言ったらおかしいけど、なんか生き生きしてる?
「まあ何はともあれ泣いた泣いた」
空太郎さんがマスクを外して鼻をかむ。
「あ!!!!」
「あ?」
私の大声に空太郎さんが何? という顔を向ける。
「私のこと覚えてませんか?」
勢いよくマスクをおろす。
「私たち会ったことありますよ!」
「ちょっとあの子、マスクおろして大声ではなしちゃって……」
近くのおばさんたちのひそひそ声にビビり、咄嗟にマスクをする。
間違いない。
空太郎さんは私の運命の人だ……!。
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