第4話 変わりゆくもの

『シン・エウァンゲリオン劇場版』とは超人気アニメの完結編である。

最初のテレビシリーズからは26年経っているにもかかわらず、今でも根強いファンが多く残る作品だ。


「――って、言ってます」


黒づくめの男と将太郎に幽霊少年の話したことをそのまま伝える。


「見に行きゃいいじゃん」


将太郎が言い放つ。


「行きたいのはやまやまだけど、映画館のある場所がわからないんだ。隣の霞町の映画館がつぶれたっていうのを噂で聞いた。俺が生きてた頃は皆そこで見てたのに」


たしかに霞町の寂れた映画館は時代の波に勝てず潰れてしまった。


「どんどん変わっていっちゃうんだな」


幽霊少年の寂しそうな表情が気になった。



* * *



「あの、どこかで会ったことありません? 私たち」

「そうかな?」


隣の隣の町の雪野宮へと向かう電車のなか、指輪をくれたあの人かどうかが気になって質問を吹っ掛ける。

黒づくめの男は本当に知らないといった感じで、少しがっかり。

将太郎、私、黒づくめの男、幽霊少年の謎パーティーで映画館へと行くわけだが、果たしてこの編隊が正しいのか私にはわからない。

幽霊少年は所謂地縛霊で、本屋の桜堂一帯にずっといたらしい。

久々に少し遠出するせいかソワソワしているようだ。


「映画面白いといいね」

「エウァは面白いとか面白くないとかじゃないでしょ」

「そっか」


私もエウァは好きだけど、この子の好きの方が上回るなと、なんとなく思った。


「ここまでの劇場版は全部見てるんだ?」

「テレビシリーズと旧劇はおっかけで見たし、新しいほうの映画も全部見た」

「霞町の映画館で?」

「うん」


前作の公開は8年前だ。

8年の間にこの幽霊少年に何があったのだろう。


「別にお兄さんはついてこなくてよかったのに」


将太郎がスマホをいじりながら言う。


「いや、まあ一応ね」

「ついてきてくれてすっごく心強いです!」

「別にただ映画見に行くだけじゃん――って痛ぇな」


将太郎を強めに肘でつく。

将太郎には幽霊少年は見えないし、私だけで対応しきれる自信はない。

ついてきてもらったほうがなんとなく安心だという気持ち半分、お兄さんの正体を知りたい気持ち半分……。


「ったく。俺がわかんないからって俺のことからかってるんじゃないだろうな」

「さっき本が宙を浮いてるの、見たでしょ」

「見たけどさ」


将太郎は自分だけ状況が把握しきれないのが面白くないようだ。


「ついたよ」


お兄さんの掛け声で電車を降りる。


「3年程前に大きなシネコンがここにできたんだよ。知ってた?」


少年はううんと首を振る。


「ほんとに知らない間にどんどん変わっちゃうんだ」


少年の表情は寂しげだった。

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