第2話 英語のテストはやっぱりできませんでした

桜宮大学の305教室。

テストの終わりを知らせる鐘の音を聞きながら頭を抱える。

昨日それなりに頑張ったのに、ヤマが外れてしまったようでなんの成果も得られないまま英語のテストが終わった。


「はあ……」


人生の無常さよ……。

スマホの通知に気づき、携帯を見やる。


将太郎:テストどうだった?

世里奈:聞かないで

将太郎:お察しだな

世里奈:うるさい

将太郎:今日この後どうすんの?

世里奈:決めてない

将太郎:本屋行くけど一緒に行く?


「本屋かー」


***


大学近くの桜堂はこの街で有名な本屋で広い敷地面積を持ち、欲しい本は大体ここで手に入ると評判だ。


「今日シャンプの発売日だからさ~」

「え、じゃあコンビニでいいじゃん」

「暇だったしたまには評判の本もチェックしないと」


将太郎はそう言いながらシャンプの単行本コーナーに消えていく。


「私テキトーに店内歩いてるから!」

「うん~」


将太郎にはコンビニでいいじゃんと言ったものの、本屋は好きだ。

特にこの桜堂は新刊ばかりでなく、古典文学なんかもしっかり揃っている素敵な本屋なのだ。

店主オススメの小説コーナーを巡る。

店主はどうやら最近異世界転生ものにハマっているようだ。

引きこもりが転生したり、スライムになったり美少女になったりおっさんが子どもになったり――。

なんかもうなんでもありなんだな。

『店主のイチオシ!』のポップアップに惹かれて、無職が異世界に転生しようとする作品に手を伸ばす。


「あっ」


ありえないことに隣に立っていた男性とまさかの手が重なってしまった。

めっちゃベタ!


「すいません」


小さな声で謝ると男性も会釈を返してくれる。

いや、この人クソ怪しいな。

今の時期マスク装着はともかく黒のバケツハットに全身黒コーデだと……。

怖っ。


「あの、これ自分アニメ見てるんですけど結構面白くて――。おすすめなんで、どうぞ――」


手渡される異世界転生小説。

いや、正直全く買う気はなかったんだけど……。


「ありがとうございます」


受け取ろうとすると、突如空に浮く異世界小説。


「えっ!?」


私と黒づくめの男の間で気の弱そうな幽霊の少年が本を横取りしていったのだった――。

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