霧祓いの騎士団

るーと

第1話 人の霧

かつて、まだ人の生きていた時代のお話。

村は活気があり、街には繁栄が齎されていた時代。

人の世は世界が許容できる数量を容易く超過していた。生命には限度がある。その定数を遥かに超え、それでもなお人は増え続けた。

生命体が生きるためではなく、最早別の何かのために生きていた。


だから。

世界はその生命を根絶やしにするため、世界を霧で包み込んだ。そして、その霧に呑まれたものは人ならざる異形と化し、ただ生きるためだけに周囲のものを喰らい尽くし始めたのだ。人類絶滅が始まったのだ。



「助けてくれ!!!父さんが!!母さんが!!」


「馬鹿野郎!!もうあれは違う!!!逃げろ!!」


薄い灰色の霧が迫る。どこからともなく現れた霧が家屋を包み込み、人を呑む。霧が包んだだけなのに家屋は崩壊し、その奥からは禍々しい人とは呼べない別の生命が現れた。


体調は約2m程。皮膚が爛れ、首から上にあるはずの頭は無い。右腕が異様に肥大化しており、対する左腕は枯れ木のような筋が脈打っている。原型を留めている人間と呼べる箇所はどこにもなかった。


「化け物だ!!!霧から化け物がぁっ!!!」

叫ぶ老人は我先にとその場から走り去る。その声を始めに霧を恐れた村の人達もその後を追って逃げた。


「違う!!あれは!!母さんだよ!!あれは!!」


少年の目に見えていたのは母親だったものの指に嵌められている小さな深紅の宝玉が装飾された指輪だった。

誰の目にも見えないそれを確かに少年は見ていた。


「母さん!母さんだよね!!ねぇ!!」


目の前に迫る巨体にそう叫ぶが、彼の声はもう異形には届いていなかった。

少年は持ち上げられ、異形の首元へ。異形の首は獲物を待っていたかのようにぽっかりと開く。その奥にはビッシリと獲物を八つ裂きにするための歯。いいや、刃が並んでいた。


「っ!?」


一瞬であった。少年は飲み込まれ、異形の首から多量の真っ赤な血飛沫が宙を舞った。たったそれだけでこの少年の命は消えた。

その光景は迫る霧に消え、その後どうなったかを見たものはいない。



霧の存在は瞬く間に様々な村、国に知られた。だがすぐにその霧に対処しようとする人々はほとんど存在しなかった。一部、彼らを除いては。


霧祓いの騎士団。霧の発生と共に現れた謎に包まれた団体。その団体は霧について研究を行い、霧を祓う力を手に入れたらしい。彼らの目的は一つ。


___人類の存続だ

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