世界観はタイトルまんまで、設定に関しても作者様がおっしゃる通りおバカなものではありますが、なにより一人一人のキャラクター達が確かな個性と人間臭さを持っているために、語られる世界が非常に生き生きと映ります。
また、シリアスとコメディがバランスよく織り交ぜられており、やめ時を見失うほどテンポ良く読めてしまいます。
さらには恵まれた体格と英才教育のおかげで世界から見ても恐らく強者に位置するほどの実力を主人公が持っていますが、それは神から与えられたチートなどではないことから、その強さを主人公のキャラクター性の一部として飲み込みやすくなっています。
これらの要素から、所謂無双物の側面を持ちつつも、その手のジャンルを苦手とする人でも読みやすくなっている、とても面白い小説であると思います。
鈍感主人公あり。
チョロインあり。
チート的な強さあり。(キン肉マンみたいに「超人」って言葉が普通に出てきます)
でもそんなの大して関係ねえ!
この作品が特別なのは、骨組みがしっかりしているからです。
世界観じゃないです。設定はむしろガバガバで、男女逆転しているようなしていないような感じです。
けど、話の流れが緻密なんです。
目次を見てください。
「第二王女ヴァリエール初陣編」とか書いてあるでしょう。
これ適当に区切ってるわけじゃありません。
この区切りの中で数回、笑いと感動の波を作りつつ、最後に最大の満足感と期待感を与えるように計算されています。
しかも、ここで達成されたことが次以降に絶対不可欠な土台として利いてきて作品全体を構成しているのです。
こんなの商業作品でもほんの一握りしかできてないことですよ。
「伏線がすごい」と言われる作品の多くは、初期設定の一部や前半のちょっとしたエピソードが最後に繋がっているだけです。
でもこの作品は「初陣編」が次に繋がり、またその二つがさらに次に繋がってきます。
戦術だけじゃなくて戦略もできてる、各話脚本だけじゃなくシリーズ構成も練られてる、そんな熱血アホ感動ストイック大河ストーリーなんです。
アホとか言っちゃいましたけど、キャラ付けは単純じゃないし、中学程度の世界史知識が前提ですから、意外と知的な小説でもあります。
アタマ空っぽにして楽しむというよりは、週末に元気をもらう感じの読み方がオススメです。
とはいえ、途中で読むのを止めることなんて不可能なんですけどね!