第16話 それは凄く尊い一枚の絵に見える。

「お母さんが泣いているとアートが心配しちゃうよ」

「でも、でも…。私のせいでアートが嫌な思いをしたなんて…」

ジョマは止まらない。

東さんが困った顔で私を見て頷く。

私は大丈夫と目で言う。

その後で東さんが口を開く。


「千歳、すまなかったね」

「何を言ってるの?アートは皆で助けるの。私は東さんもジョマもアートも仲間や友達は誰も取りこぼさないの。だからすまないなんて事は無いの。これも全部私のワガママだよ」

それを聞いていたジョマが更に震えて泣き出す。


「千歳様、千歳様」

「ほら、ジョマが泣くと王様達がまた怒りだすよ」

私は背中じゃなくてジョマの頭を撫でながら言う。


「そうですよジィマ様。今も見てみてください。

泣いているジィマ様を見て怒ったテッドと魔王さん達が剣を飛ばしてますよ?」

私はメガネに照準を合わせると隠匿の力で隠れた剣が36本メガネに飛んで刺して切ってを繰り返している。

テッドに至っては属性解放を行っているのだろう。メガネは火傷している。


「母さん、泣く事はない」

「そうだよジョマ。泣く必要なんてないよ」

「これからの時代は理解してもらえるまで黙ってやり過ごすなんてしないで武力行使だよ」

3人がジョマに近づいてそれなりに励ます。

ジョマは返事が出来ないけど嬉しそうに頷いている。


「王様と黒さんは少し控えなさいよ」

私が呆れながら言うと後ろから駆けてくる足音が聞こえる。



「パパ!ママ!」

その声はアートで一目散に駆け寄ると泣きながらジョマの胸に飛び込む。


「アート!」

「ごめんね!朝はママのご飯残してごめんね!」


「アート!アート!!」

「ママが泣かないで済むようにアートが強くなるよ!パパを悪く言う奴をアートがやっつけるよ!今も千歳とやっつけたんだよ!」

アートが泣きじゃくりながら必死になってジョマを励ます。


「アート、見ていたよ。ありがとう。強くなったね」

東さんが嬉しさを隠しながらアートにお礼を伝える。


「パパもギュッとして!」

「ここでかい?」


「そうだよ!ママが泣いてるんだからアートとギュッとするの!ママも泣いてないでアートと一緒に泣きたいのを我慢しているパパをギュッとして!」


「そうだねアート。ジョマ、泣く事はないよ」

「京太郎…、アート…」

「パパ、ママ」


そう言って3人で抱きしめ合う。

それは凄く尊い一枚の絵に見える。

思わず涙ぐみそうな中、王様と黒さんが「くる?」と言いながら手を広げてきやがった。


誰が行くかバカタレ。



その直後は相変わらず空気の読めないお魚さんが「それよりもアートは俺のお魚で元気になってお魚好きになってくれヨー!」とアートに駆け寄る。


皆からブーイングを食らう中で引き下がらないお魚さんにアートが笑いながら「さっきも言ったけどアートはお魚好きだよ。本当に昨日はハヤシライスの気分だったの。でも千歳が海鮮丼作ってくれてたら喜んで食べてたよ」


「2日連続でもカーイ?」

「うん」

アートが言い終わると即座に私を見るお魚さん。


「ヘイ!千歳!?」

「無理、私のお財布からは私やアートが満足できる海鮮丼のお魚は買えません。それにうちのお父さんは肉より魚派だから居ない間に海鮮丼食べたなんてバレたら大変だもん」


「そりゃないゼーッ!言ってくれればいつでもお届け産地直送だゼーッ?」

「毎度たかる訳にもいかないでしょ?」


「NOォォォ!」

「千歳、海鮮丼食べたい」

アートがお腹を触りながら言う。メガネを倒してようやく食欲が出てきたのだろう。


「ジョマと地球の神様がお米持ってきてくれたならやるよ」

私が言った瞬間に広場の端から後光を出しながら歩いてくる影が見える。

もう誰だかは分かってしまう。


「そうだろう、そうだろう」

そう言って現れたのは地球の神様。


「何やってんの?」

「ふふふ、アートがお米を求める事は知っていた。

米の神に頼んで特別のブレンド米「天上天下唯我独尊」を入手したぞ。

アートや、お腹いっぱい食べなさい」

そう言って両手から米を出しながら笑う地球の神様。


しかもそのまま止まりやしない。

「ふっふっふ、友情神、いや漁業の神よ!」

「NO!俺は友情神!」

あ、地球の神様の認識も漁業の神なのね。

本当友情神じゃなくて魚神とか漁業の神とか素潜りの神になればいいのにと思う。


「いや、魚の神よ!お前が捕ってきた魚達はこの米に見合うだけの魚なのかな?ふはははは!」

あ、また大人気ない事し始めたよこの人は…。

私は6年前に私の為に本気を出して複製神さんと隠匿神さんを巻き込んでフルーツを作ってきてくれた時の事を思い出す。

地球の神様は部下に塩を送るとかそういうことが出来ない。

本気で準備してしまう人なのだ。


「何を!?俺のお魚さん達が負けるわけがないゼーッ!」

「ふっ、本業の素潜りを片手間に友情神を目指す奴がよく言うわ!」


「ちょっと、やめてあげなさいよ。とりあえず地球の神様は炊飯器とタコ焼きの機械を出してね」

このままだと長引くのがわかっているので私はさっさと止める。


「むぅ、もう少し楽しませる気は?」

「ないわよ。アートもお腹ペコペコなんだからね」


「おお、アート…、済まないね」

「おじちゃんお腹空いた」

こう言う時のアートはまとめる力が強くて助かる。

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