第14話 やっとアートにいつもの笑顔が戻った。

「アートさん。今回は嫌な思いをさせてすみませんでした。

私は創造神崩れで能力が弱まる日々が怖くて紛らわせる為にアートさんのご両親を悪く言っていました」

そうメガネが顔を真っ赤にして謝り始める。

真っ赤なのは悔しいのだろう。自尊心の塊が斜に構えて自身を誤魔化しているが格下と決めつけた子供に謝るなんてプライドが許さないのだろう。


そこに黒さんの声がした。

口からではなく心で語り掛けてきている。


「いやぁ、リリオはいい仕事をするね。

看破の力でコイツの心を丸裸にして損得勘定で損をしたくないとか、承認欲求を満たして自分を守りたいからアートをいじめた事とか全部バラされていたよ」

それでか。嘘もつかずにここまで話す理由はりぃちゃんに看破されたからなのか。


その間もメガネの独白は続く。

「5年前、衰えた能力を周りに見抜かれるのが怖くて1度世界を作りましたがそれくらいしかしていません。アートさんのお父さんは長い時間をかけて5つの世界を作られて管理されていて立派です」


ん?

コイツ、世界なんて作ったの?


その後はありきたりの謝罪だったが一通り謝った。


「アート、どうだい?」

王様がアートに優しく聞くがアートは顔を背けて怖がるばかりだ。


「アート、私が前に同じ目に遭った時も王様は助けてくれたんだよ」

「え?千歳も?」

アートは初めて聞いたから驚いて私を見る。

アートの中で私は強い半神半人なのだろう。


「そうだよ。アート、私ならどう怒るか見てもらってもいい?」

「うん」

私は自身がアートならと思いながら力を使うイメージをアートに送る。

アートは何処か嬉しそうに私を見る。

これをしてもいいの?と言う顔だ。

私はいいんだよと頷く。


「千歳も一緒にやってくれる?」

「いいよ。さあアートの怒りを声にして形にして。

全部吹き飛ばそう。

アートは強い子だよ。

私の祝福を受けてくれた強い神。

まだ6歳だけどアートならやれるよ!

周りを見て!皆居るよ!

何かあってもアートが間違っていなければ皆が助けてくれるよ!

やるよアート!」

私は優しい言い方から徐々に語気を強めてアートを鼓舞していく。


「うん!」

アートは震えている。

メガネを見ると決心が揺らぐのがわかる。

私は何も言わずに待つ。

暫く待つ。

広場がシンとなった気がする。


その時アートが動いた。

「昨日は嫌だった!怖かった!

大好きなパパとママを悪く言われて悲しかった嫌だった!

パパをいじめて楽しかったと笑われた時は凄く嫌だった!

パパをアートが助けてあげるんだ!!」

そう叫んだアートがメガネを睨む。

突然アートに睨まれた圧でメガネがビクッとなる。


アートは私の腕を離れて自分の足で広場に降り立つ。

もう一度アートが震えながら涙目で睨むとアートの圧でもう一度メガネが縮み上がる。


アートの考えは読み取ってある。

後は合わせてあげるだけ。


「行くよ千歳!」

「やるよ!アート!!」


「神の力!」

「神如き力!」


「「爆発!!」」

そう言った瞬間メガネを中心に大爆発が起きるが王様と黒さんが防壁を張ってくれている。

ダメだった時用にご馳走と爆破地点近くの隠匿神さんには私が防壁を張っていた。

王様と黒さん?自動防御があるからこの程度で傷なんかつかないから防壁は張らない。


「「あー、スッキリした!!」」

私とアートが同じことを言って顔を合わせて笑う。


やっとアートにいつもの笑顔が戻った。


「メガネは今の攻撃でボロボロさ。チトセは威力を抑えたんだろ?」

「それで僕達の防御壁に傷をつけるなんてね。アート、やるじゃないか」

王様と黒さんが嬉しそうにアートを褒める。

まあ、王様は頑張る子供が好きなので必要以上に褒めちぎる。


「えへへへへ。そうかな?」

「そうさ。将来が楽しみだね」

「おいメガネ。もう帰れよ」

黒さんが蹴り起こすとメガネはヨタヨタと帰っていく。

隠匿神さんは爆破のタイミングで隠匿の力を解いているので傷だらけでも違和感はない。

…主に切り傷と刺し傷ばっかりなんだけどなぁ。

まあアートが気づかなきゃいいや。


「アート、今ここにいる皆はアートを心配して助けてくれたんだよ。ご飯の前にお礼を言ってきなさい」

私が言うとアートはニコニコといつもの可愛らしい笑顔で「はーい!千歳もありがとう!」と言って、目の前の隠匿神さんに握手をしながらお礼を伝えた後で戦神に飛びついてからテッドとりぃちゃん、ナースお姉さん達と皆のところに挨拶に行く。

皆アートと握手をしたりアートを抱っこしたりしながらお礼のお礼を言ったりしてくれる。


「王様、あんまりアートに変な自信はつけさせないでよね」

「爆破の威力の事?チトセと半々だからまだまだだよね。でもツネノリの練習と同じさ。自分でやった自信がアートを更に成長させてくれるから大丈夫だよ」

王様は嬉しそうに笑いながら言うが私は気が気じゃない。

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