第13話 それでも頑張って見ていなさい。

私達はウキウキで広場に戻ると血は全部片付いていてテーブルも出ている。

お魚さんは頑張ったようで色んな魚がこれでもかと用意されていた。


「わぁぁぁぁっ!凄い!」

「ヘイ!お魚お待たセーッ!」

広場に走って行くと大喜びのアートを見て嬉しそうなお魚さんが身振り手振りでアートを出迎える。


「お魚さん!こんにちは!昨日はありがとう」

「大人として当然だゼーッ!今日は沢山食べてお魚を好きになってくれヨー!」


「アートはお魚好きだよ?」

「でも昨日はお肉に負けたゼーッ」


「毎日は食べないよぉ」

「何でだヨー?」


「好きだからかなぁ?毎日食べたら好きじゃなくなりそうなんだよね」

アートが「うーん」と悩みながら答えるとお魚さんは「難しいゼーッ」と言って頭を抱える。

それを見て皆も笑っている。

先程までの血みどろの名残なんかない。


「千歳よ。兄に捌いて貰えないだろうか?」

そう言って戦神がくる。


「確かに…大量だもんね」

「ツワモノと黒魔王は獣なら捌けるが魚は苦手だと申すのでな」


「確かに。私も少しはやれるけどこんなには嫌だな。よし。複製神さん。このお魚を複製して貰えます?」

複製神さんは驚いた顔で「構わないがどうするんだい?これでも大量だよね?」と言う。


「半分は代金になるんです。

おーい、ツネノリー、今どこ?家?私?今日は神の世界でお仕事だよ。

仕事頼みたいんだけど。

「光の腕輪」でツネノリ包丁出してよ。

うん、そうだよお魚さんが沢山魚を獲ってきてくれたから捌いて欲しいんだよね。

いい?ありがとう。

それで2匹ずつ渡すから1匹はツネノリ達の分ね。好きに食べてね。

三枚おろしで良い奴は魚にメモをつけるから。それ以外はお刺身ね」


それを聞いた複製神さんは納得が行ったと魚を複製してくれる。

ただ流石にツネノリ達で食べられる量を超えているので半分はコピーガーデン送りにしようと思い向こうのツネノリにもまったく同じ話をする。


「よし!転送しましょう。

カジキはゼロガーデンで、ブリはコピーガーデン、黒鯛はゼロで鯛はコピー、平目はゼロ、カレイはコピー、アジは半分こだね。タコは私が捌くかな」

こんな感じで魚を渡しては回収を繰り返す。


「千歳、今日はお刺身パーティーなの?」

「ううん。違うよ。こっちのお刺身はカルパッチョでこれはムニエル。

こっちは味噌煮にしてこっちは照り焼きね。

アジは沢山あるからフライとお刺身となめろうだよ」

私はテキパキと調理をする。

数が欲しいものに関しては複製神さんに複製してもらって次々とテーブルに盛り付ける。

お米が問題か。

「ジョマと東さんに来てもらうときにお米を持って来てもらって、地球の神様にもお米頼むかな」

そんな事を想いながら調理がある程度終わったところで王様と黒さんに私とアートが呼ばれる。


「先に支払いを済ませよう」

「アート、今なら僕たちやチトセもいる。頑張るんだよ」

「キヨおじちゃん?黒キヨおじちゃん?」

王様と黒さんの発言にアートはキョトンとしてしまう。

呼ばれた先には隠匿神さんがいて小さく手を振ってくれるのでアートと振り返す。


隠匿神さんがいると言う事は…。

私は隠匿の力を理解しているので隠れていても見ることが出来る。

神の力で目を凝らすと目の前には血まみれで正座をさせられているメガネが隠匿されていた。

王様に斬られた足はくっ付いていた。



「隠匿神、やって」

王様の声で目の前にはメガネが傷一つない姿で現れる。

隠匿神さんの力で怪我を隠匿したのか…。

よく考えると臭いまで隠匿できることに驚いた。


「ひっ!?」

アートが物凄い表情でメガネを見ると私に抱き着いてくる。

余程怖かったんだろう。

強張りが伝わってくる。

私はアートの手を握って安心させる。


「王様、アートにはまだ無理だよ」

「ダメだ、今でなければダメなんだ」

「かつてのチトセと同じだよ」

私の意見に即座に反論する王様。

そしてかつての私と言った黒さん。


そうだ。

私はこのやりとりを知っている。

かつて覗きの神に恐怖した14歳の私を王様が奮い立たせてくれた時と同じだ。


王様と黒さんがメガネの横に立つと

「何か一言でも余計な事を喋ってみろ」

「その時は更に酷い目に遭わす」

と言う。


それも同じ。

これで私は立ち直れた。

私がする事は決まっている。


「アート、今は皆が居るよ。怖くないよ。もうコイツは私達でやっつけたんだよ」

「やだよ千歳。怖いよ」

アートは震えて泣いている。

あの日の私は14歳。アートは6歳。

当然だ。


私はアートを抱きかかえると背中をさする。

「それでも頑張って見ていなさい。そして心のままに怒りと恐怖を表して」

「千歳…」

目に涙をためたアートが私に目で嫌だと訴えてくる。


「アート、大丈夫だよ。僕達は君の味方だ。君が間違った道に行かないように助けて支えるよ」

「メガネ、始めろ」

王様に睨まれたメガネが恐々と口を開く。


「あ…アートさん。今回は…嫌な思い…をさせてすみません…」

「すみませんでしただろ!」と王様が即座に殴る。

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