第12話 東さんとジョマも気づかないなんて余程余裕無かったのかな?

「アート、お昼ご飯は何がいい?ママなんでも作るわよ?」

ジョマが無理をして明るく振舞う。

テンション高く身振り手振りでアートに気を使っている。


「いらない」

「アート…」

だがアートはジョマをチラ見だけして顔を戻していらないと言う。

ジョマは泣きそうな顔でアートを見る。

そのアートは何かの絵を描こうとしては上手くいかなくてグシャグシャにする。


「アート?どうしたんだい?」

そのジョマとアートのやり取りを見ていた東さんも見かねた末に困った顔でジョマとアートの所に近寄る。

普段は東さんの抱っこが大好きなアートが抱きかかえられてもイヤイヤと首を振る。


東さんもショックを受けた顔をしている。

私はアートに照準を合わせて追体験をするとアートは朝ごはんも殆ど食べずにいじけていた。


それもこれもあのメガネと粗暴の神が原因だ。

くそ、もう少しメガネを痛めつければよかったかな。



「アート」

私はそう言って姿を現すと東さんとジョマも驚く。

普段なら私に気付いている東さんとジョマも気づかないなんて余程余裕無かったのかな?


「千歳!」

「千歳様」

「千歳、どうしたんだい?」


「ん、解決って訳じゃないけど進展もあったし、ちょっとアートに頼みができてさ」

「頼み?」


「うん。アートじゃないと駄目なんだよね。ちょっと困ってさ。助けて欲しいんだよね」

「んー、いいよー」


「本当、助かるよ。じゃあトイレとか済ませてきてね」

「はーい」

アートがなんの疑いもなくトイレに行くので東さんとジョマに概要だけ伝える。


「2人はね、傷つく必要も怒る必要もないよ。皆が東さんとジョマとアートの為にやってくれてるからね。

後は見ても怒らないなら私の追体験をして、そうしたらアートに何があったかわかるからね。

それとお昼ご飯は神の世界でお魚パーティーだから落ち着いた頃を見計らって来てね。

あ、先に言うとさぁ、昨日アートがお魚を2日連続にしないって言ったところをお魚さんに見られちゃったんだよね。ハヤシライスに負けたってお魚さんがショック受けちゃってさ、アートを美味しい魚で元気にしたいんだって。今も日本海だったかな?南とか言っていたかも?素潜りでカジキマグロと格闘中だって」

私は笑いながら明るく説明をする。


「ありがとう千歳」

「千歳様、なんと御礼を言ったらいいか…」

ジョマが涙目で東さんがジョマの肩に手を置いて慰めながら言う。


「良いんだよ。皆東さんとジョマとアートが大好きなんだよ」

私達は心で話しているとアートが戻ってくる。


「お待たせー」

「うん。じゃあ行こう。アート、よろしくね」


「任せてよ!」

そう言って笑うアートと手を繋いで瞬間移動をする。

私は神の世界に戻ると広場ではなく地球の神様の家に直接行く。


「え?地球のおじちゃん?」

「うん。地球のお爺ちゃんはアートが心配で気になって仕方ないんだって。元気付けようよ」

そう言うとアートが私の手を放して先に地球の神様の家に入っていく。


「こんにちは!」

「アート、よく来た。千歳、私はお爺ちゃんではない」

外で言った事を聞いていたか。

まあ、聞いていたと言うか東さんの家でもずっとアートが心配で見ていたんだと思う。


「変わらないわよ」

私が呆れながら返事をすると笑いながらアートの方を見る。


「アート、大丈夫かい?」

「…うん」

アートは何を聞かれているかを理解して暗い顔になる。


「心配なら乗り込んでくれば良かったでしょ?それをトキタマ君に頼むなんてまったく」

そう、トキタマ君がアートを見守っていた事には理由がある。

たまたま見ていたケースもあるが、恐らくアートが心配でトキタマ君に監視を頼んでいたのだと思う。

だから王様に話が行くのも早かった。


「立場というものもあるのだ」

「面倒くさいなぁ。まあいいや。広場でやるお魚パーティーに参加するでしょ?早く来なよ」


「お魚パーティー?」

私が地球の神様を誘うとお魚パーティーを聞いていなかったアートが驚く。


「お魚さんがアートに魚で元気になってもらいたいんだって。こっちもアートが居ないとダメだから助けてあげてよ」

「アートはお魚も好きだよ。お寿司とかサイコーだよね」


私は「ねー」と言ってアートと笑う。

まあお魚さんならこの部分を聞いてもハヤシライスに負けたと悲しむだろう。


「アート、千歳と迎えに来てくれたのだな?ありがとう。先に千歳と行きなさい」

「地球のおじちゃんは?」


「私はやることがまだ少しだけあってね。それでも間に合うと思うからね」

そう話したところで心の声で「立場的に創造神の謝罪等を見ると事が大きくなりかねない。私は終わったら行かせてもらうよ」と言われる。


面倒くさいものだが確かにそうだ。

今なら神々の小規模な衝突で済む。


「ほら、行こうアート。アートも用意を手伝ってよね」

「何すればいい?」


「お箸配ったりとかだよ。アートはお腹空いた?」

「うん!朝とかあんまり食べたくなくて食べられなかったの」


「そっか。お腹空いているならお魚パーティーはきっと楽しいよ」

「うん!千歳と連続ご飯嬉しいなー」


アートは可愛い事を言うなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る