第7話 あ、無理だ。我慢できない。

「入るぞ」

「お邪魔しまーす」


部屋はお魚屋さんそのままに魚の匂いがする。

リビングのテーブルでお魚さんこと元々は人脈の神で私に言わせたら軽薄の神。

今は進化して素潜りの神だったり漁業の神だったり本人は友情の神と名乗っていて面倒なのでお魚さんと呼んでいる神が居る。

そのお魚さんはなんか暗い。


「どうした?」

戦神が暗さを感じて質問をする。


「…昨日、あの後ずっと心配でアートの事を地球の神様に聞いたんだゼーッ。

そうしたらアートは2日連続のお魚さんが嫌だって…」


あ、昨日の夕飯の話だ。

お魚さんはそこを見たのか…。


「えぇ、それはたまたまだよ」

「オーゥ。たまたまはまたまたなんだゼーッ。

お魚さんはとっても栄養満点で美味しいんだゼーッ?」

物凄く悲しそうに身振り手振りで話すお魚さん。


「仕方ないって、アートはまだ子供なんだからさ。昨日は私もアートもハヤシライスの気分だったんだよ」

「シーフードカレーじゃダメだったのかヨー!?」

コイツ、何が何でも魚メインにしたがるな。


「シーフードカレーは辛くないと美味しくないでしょ?そりゃ甘めも作れるけどさ。

それにアートはハヤシライスが好きだから仕方ないの。

シーフードはデミグラスソースに合わないでしょ?」

「トマトソースなら美味しいだロー?パスタだってよかったじゃないかヨー!

俺はそれが悲しくて今朝は漁に出られなかったゼーッ」


そこまで?

このやり取りが長そうだなと思った所で戦神が前に出てきてくれる。


「お主がアートを案じたのはよくわかった。とりあえずアートに魚の素晴らしさを伝えるのは全てが終わってからにしてはどうだ?」


戦神がそう言うとお魚さんが私の方を上目遣いに見る。

「千歳、やってくれるかーい?」

「やるやる。広場で浜焼きパーティーしよう。タコ焼きもやるよ」


「約束だゼーッ!?」

「うんうん」


「千歳、私も参加したいぞ」

「うん。戦神も来なよ。後は時空お姉さん達も呼ぼうね」


そうやって話が進んでようやく本題に入れる。



「それで、アートには何があったの?」

「怒らないかーい?」

ちょっとビクビクした感じでお魚さんが聞いてくる。


「もう怒ってるわよ」

「暴れないかーい?」


「そう言う相手なのね」

「オーゥ、名推理」


「とりあえず話して」

そうして聞き出した情報は無茶苦茶だった。

かつて東さんを苦しめた創造神崩れの1人、眼鏡の小柄な方が発端で、散歩していたアートを見かけて近くにいた粗暴の神達を焚きつけていた。


「落ち着け千歳!」

戦神が私の顔を見て慌てる。


「戦神?落ち着けると思う?」

私の髪は怒りに呼応して真っ赤に光って絶賛放電中だ。


「何?あの創造神崩れのメガネがアートを見つけて、粗暴の神達に東さんの娘だと吹き込んだと。それで?お魚さんはなんでそれを知ったの?」


「昨日のお魚のお届け先は天界だんたんだゼーッ。配達したのは視覚神と外聞の神で2人がアートについて教えてくれたんだゼーッ。慌てて助けに来て戦神と時空神を呼んだんだゼーッ」

「え?視覚神って覗きの神?」

まさかの名前に私は驚く。


「ノー、別の視覚神で困った人が居たりしないか探してくれる神だゼーッ」

「成る程。それでなんて話してたかはわかる?」


「落ち着けるかーい?」

「無理だって」


「…家は破壊しないでくれヨー!?」

「壊しても直すわよ」

直せばいいでしょ直せば。


「千歳、そもそも壊すな」

「……善処するわよ」


そう言ったところでようやくお魚さんが口を開く。


「粗暴の神達も昔はあの創造神達とガーデンの神が作った世界を壊していた神達なんだゼーッ」


「落ち着け千歳!」

「落ち着いてるわよ。これでもね」

大気が震えて地面が揺れるが、これでも私は落ち着いている。


「それでたまたま粗暴の神達に出会ったあの創造神は困っていたんだゼーッ」

「は?」


「そもそもあの創造神も粗暴の神が得意じゃないんだゼーッ」

「え?もしかして自分が嫌な思いをしたくないから近くにいたアートを見かけて、粗暴の神達を焚きつけてやり過ごそうとしたの?」

「名推理だゼーッ」


あ、無理だ。

我慢できない。

もう髪の毛は真っ赤に光るしパチパチと言う音がバチバチになっている。


「千歳!人に戻れなくなるぞ!」

「まだ平気」

うん。アートに貰ってもらってから6年。

私の限界値は今日も成長中だ。


きっとお魚さんはここまで私が怒れば後は関係ないと思ったのだろう。

話を続ける。

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