第5話 そう?じゃあビリンさんにお願いしてみようか?

「東さん達遅いね」

「千歳眠い」


「チトセの部屋に布団敷けばいいか?」

「うん。私は東さんに何時になるか聞くよ」


「ビリンさんお布団を敷いてくれるからアートは歯磨きしようね」

私は洗面台にアートを連れて行くと歯磨きをさせる。

アートの服から歯ブラシからウチには何でも揃っている。

まあ、それだけ家出をしてくるのだけど…。


東さん達は二次会をしていた。

アートが心配でたまらないジョマにお父さんが「いい機会だから千歳とビリンに任せようぜ」と言っていた。


子離れと言えば聞こえはいいが、奢りご飯が美味しいだけじゃないか?


「パパとママは?」

「んー、まだお話ししてるね」


「アートも見たい!」

「あー、アートからは見えないんだよね。

まあ大丈夫だから寝ようよ。

夜中にパパが迎えにきたら帰ればいいし来なくても朝までウチで寝れば良いんだからさ」


「うん。川の字して!」

「へ?川の字?どこで知ったの?」


「ツネツギがこの前教えてくれた!「俺も千歳が小さい時や常則が小さい時はなぁよく川の字で寝たもんだ。でも何でか千歳は俺ばっかり蹴るんだよなー」って言ってたからママに聞いたの」


蹴ったのかな?うん、お母さんとお父さんならお父さんを蹴るよね。


「まあ良いかな」

本当は神の世界に乗り込んで犯人探しをしたかったがそれは明日でいいや。


「やったー!ビリン!川の字だよー」

「何だそれ?」

布団を敷き終わったビリンさんにアートが飛びつきながら説明する。


「よし、じゃあ寝るか」

「うん!」


私とビリンさんも寝間着に着替えると私の部屋に敷いた布団に3人で入る。


「狭くね?」

「これがいいんだよー。チトセは今日なんで遅かったの?」

アートが私の方を向くと残業をしてきた理由を聞く。


「へ?チトセ仕事大変だったのか?」

「明日はお休みだから今日中に片付けたかったんだよ」


そこで私は残業になったケィの国の話をする。


「不人気って伝統料理の味が変わったのか?」

「うん…まぁ…」


この言い方で原因が私にあると察したビリンさんが「何やったんだ?」と聞いてくる。


「いやぁ、ほら、サードって外だと10年目で中だと何百年も過ぎているでしょ?

少しでも東さん達とサードを良くしていこうとしているからホルタウロスみたいな牛型の魔物から獲れる牛肉が昔より品質もいいし霜降りでさ」

「あ…何となくわかった」


「あはは…?だから昔ながらの製法だと油濃くて不人気でさ」

「それでチトセはその説明をしてスタッフと納得の味になるまで料理を作ってきたと」


「うん」

「まあ、チトセらしいな。お疲れさん」

ビリンさんが笑いかけてくれると疲れが吹き飛ぶから不思議だ。



この話をしたらアートが少しだけ変な顔をした。


「アート?」

「千歳、パパとママの世界はいい世界だよね?千歳も居るから変な世界にはならないよね?」


突然変な事を聞いてくる。


「あんたどうしたの?」

「ならないよね?」


アートが心配そうな声で必死になって聞いてくる。

これはただ事ではない。


「ならないって。チトセも頑張っていてジョマも神様も頑張っているんだからさ。アートは何か気になるのか?」

「ううん。ならないよ」


「そっか、なら良いじゃないか」

「うん」


そう言ったアートは居心地悪そうに私の胸に顔を埋めて眠ろうとする。

いくら神でも6歳なのだ。眠った方が良い。


「今は寝なさい」

「うん。千歳とビリンは赤ちゃん欲しくないの?」


突然胸に顔をうずめたアートが変な事を聞いてくる。


「ふぇ?」

「うぇ?」


私とビリンさんは驚いてしまい素っ頓狂な声を出してしまう。


「赤ちゃんだよ。結婚して赤ちゃんに来てもらいなよぉ〜」

アートが急に甘えた声を出す。


「何だ急に?でもアートってヤキモチ妬きじゃん。サエナにヤキモチ妬いた時は大変だったろ?」


「あれは赤ちゃんのアートがやった事だよ。アートはお姉さんになったから平気だよぉ〜」


アートはシエナさんとザンネさんが授かった新しい命、サエナが生まれたときに私とビリンさんが可愛いを連呼したらヤキモチを妬いて大変だった。

ビリンさんがその話を持ち出してアートをけん制する。

でも赤ちゃんか、居たら大変だろうけどきっとその何倍も楽しいだろう。


「そう?じゃあビリンさんにお願いしてみようか?」

「本当!?」


「うぇ?チトセ?」

ビリンさんは暗がりでもわかるほどに真っ赤だ。


「別にそう言う未来があっても良いかもねって話よ」

「はい。頑張ります」

ビリンさんは更に真っ赤になって返事をする。



「でもアート?何で急に赤ちゃんが欲しいの?」

「赤ちゃんが居てアートがお姉さんになったら強くなれるもん」


…こんな事を言うなんて余程の事があったのだろう。

私はビリンさんを見るとビリンさんも頷いてくれる。


「よし、じゃあ俺はチトセが嫁に来れるように頑張るから赤ん坊がウチに来たらアートがオムツとおんぶをよろしくな」

ビリンさんが笑いながら言うとアートが凄い顔をする。


「えぇ!?ビリンは何をするの?」

「仕事。狩りをしたり魔物を倒したりやる事たくさんだぜ?」


「そんなぁ…千歳は?」

「千歳もお仕事があるからアートにお願いしたいかな。よろしくねお姉ちゃん」


「ええぇぇぇ…」

そう言ってアートは満足をしたのだろう。あっという間に眠りにつく。


「ビリンさん」

「おう、明日だろ?行ってこいって」

何も言わずに察してくれるのは本当にありがたい。


「うん。ありがとう」

「俺も神の世界に行けたらなぁ。防壁張れば覚醒を防げるとか無いかな?」


「無理だってば」

「歯痒いな」


「そんな事ないよ。居てくれてありがとう」

そう言うとビリンさんからキスをしてくる。


「俺の方こそいつも済まない。あとは赤ん坊の話は嬉しかった。いつか産んでくれないかな?」

「うん。いいよ」


私達はもう一度キスをしてから東さん達を呼び戻す。

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