第4話 私は冷静ではいられない。

「アート、アートはいい子?」

私はおもむろに鍋をかき混ぜながらアートに質問をする。

鍋からはニンジンや玉ねぎのいい香りがする。


ビリンさんと私の絵を描くアートは「いい子だよー」と返事をする。

「じゃあアートのだけオムハヤシにしてあげよう」と言うと「本当!やったー!!」と言ってアートは飛び跳ねて喜ぶ。


「良かったなアート。んでチトセ?」

「はいはい。ビリンさんもいい子にしていたのね」


「よろしく〜」

2人はオムハヤシになった事に喜ぶ。


「じゃあ、いい子はお手伝いしてよね」

2人はそそくさとスプーンとフォークを用意してサラダをテーブルに乗せる。


3人での食事。

アートの取り決めで私がお母さんの席でビリンさんがお父さんの席。

アートは私の席で「いただきます!」と言う。


「チトセ飯はやっぱり美味いな」

「美味しいよ千歳!」

ひと口食べて大喜びのビリンさんとアート。


「喜んでもらえて千歳も嬉しいよ」

アートの分は子供サイズでも大きめにしたのだがお替りまでしていた。


食後のお風呂。

アートの事はビリンさんに任せようとしたらアートが「3人で入るの!アートが言うとママとパパは入ってくれるよ!」と言う。


「えぇ、東さんの家はお風呂が大きいからだよ。うちは3人で入るのは大変だよぉ」と私は言う。


「じゃあ大きおお風呂に行こうよ!」

「どこだそれ?ウチか?」

確かにビリンさんの家はお城なのでお風呂が物凄く大きい。


「あ!それも良いけどビリンのお家行くと3人じゃなくなるからダメ」

「じゃあ温泉だね」


私はお風呂道具を用意してウエストの温泉まで行くと神如き力で隠匿してしまう。


「やった!温泉」

アートはさっさと服を脱ぐと温泉に飛び込む。


「身体洗いなさいよ」

「はーい!」


そんな話の後をしながら3人でお風呂に入る。

まあ、私とビリンさんは付き合って6年も経てば裸の一つや二つを見せ合う機会はあるので一緒に入るのは問題ないが恥ずかしいのは恥ずかしい。


「じっと見たら怖いよ」

「わかってるよ」


ビリンさんのありがたい所は見たくても我慢をしてくれることだ。

安心してお風呂にも入れる。


3人で湯船に入ると私は何気なくアートに触れる。

「千歳?」

「溺れないようによ」


「平気だよー」

そう言うアートから何があったかだけ調べる。

追体験はプライバシーの面からやらない。


アートは幼稚園の後は日課になっている神の世界に散歩に行っていた。

「日本は安全だけどママがお仕事の日は神の世界にしてね」と言うジョマの指示に従ってのことだ。



「アート、今日も神の世界に行ったの?」

「うん…、行ってきたよ」

その声はとても暗くて何かがあった事は容易にわかる。


「アート、何があったの?」

「何もないよ…」

アートが俯きながら何もなかったと言う。


「嘘、そんな声してたらわかるよ」

「本当、チトセにもわかるくらいなんだから俺にはバレバレだぜ?」

合わせるようにビリンさんが言うとアートは泣きながら神の世界であった事を話してくれた。


12歳と同じコミュニケーション力があってもアートはまだ6歳なのでどうしても辿々しい場面がある。

心は12歳でも他は6歳なのだ。


「いつもみたいにお散歩してたの。

そうしたら見たことない人達が話しかけてきたの。

その人たちはアートの事を知っていたの。

それで何か嫌な事を言う人たちだから居たくなくて帰ろうとしたのに意地悪して帰らせてくれないの。

それで困っていたらお魚のおじちゃんが助けに来てくれて戦神と時空のお姉ちゃんを呼んでくれて時空のお姉ちゃんのお家に連れて行ってくれてお茶を貰ったの」

そう言いながらアートが泣く。

私は冷静ではいられない。

ビリンさんがそれを察してアートに質問をしてくれる。


「それで嫌な事があったから家に帰らずにチトセの所に行ったのか?」

「うん、きっと顔を見たママが心配して怒って大変な事になると思ったの」


「誰そいつ!?小さな子供にそんなことをして許せない!」

私は怒ると髪が赤くなって放電する。


「バカ!やめろって!痛い!!水の中だとビリビリするから!」

ビリンさんは感電して苦しむ。

アートと私は同じ力で問題ないのでアートは痺れるビリンさんを見て笑う。


「わららららら…たすすすすす…」

笑ってないで助けてくれかな?上手く喋れないビリンさん。


「ビリンがビリビリしてる!」

「面白いねアート!」


私が放電をやめるとビリンさんは「チトセ酷え」と言って笑う。

これで機嫌が治ったアートを連れて家に帰る。

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