魔法と医学


「ねえ、ルーフィ、魔法で、次元の歪みを

変えられないの?」と、わたしはちょっと無理な事を言った。


ルーフィは少し考え、「できない事はないだろうけれど...

そんな魔法は考えた事もないな。相当、能力もいるだろうし。

僕のご主人様くらいの人だったら、できるかもしれない...。」


ルーフィのご主人様は、未来を悲観して、眠ってしまったんだっけ。

それで、ルーフィが、ご主人様の望まれるような未来に

変えられるなら、お目覚めになるだろ...う、って

それじゃ、自己矛盾じゃない!(3w)。


ご主人様を起こすのに、ご主人様くらいの魔力が無いとできない、なんて。




「そんな事ないさ」と、ルーフィは涼しい声で言う。


「?」わたしは、言葉の意味がわからない。


「僕と、君、それと、あの子、3人分くらいの魔力があれば....。」と、

ルーフィはとんでもない事を思いつく。



「わたし....って魔法使いじゃない!、し、めぐはなーんにも知らないわ!」と

わたしはびっくりマーク!になった(7w)。


「うん、想像だけど、あの子、も君と同じような生まれ育ちだったら....

素質はあるかもしれない。図書館で、君の素性をしっても

素直に受け取ったところを見ると、それまでも魔法に

触れてたかもしれない....。」と、少しシーリアスな顔をしたルーフィは

結構かっこいい(2w)。



そっか。

あの子は、もうひとりのわたし。


だったら、似てるって事もある....わ。




「それで、3人の力で、悪魔くんを魔界から、こっちに迷い出ない

ようにする魔法って...あるの?」

と、わたしは興味を持って、ルーフィに聞いた。



「わからない....けど、手がかりはあるさ。悪魔くんたちが

来るのは、悪のエネルギーを感じるからなんだ。

人間界で言うところの、脳内分泌物質ノル・アドレナリンの量とか

攻撃的思考をするときの脳波、シータ波の電磁波を感じ取れる、とか。


そういう事で、悪意を感じ取って、その人に憑くのさ。」



と、ルーフィは人間界の言葉でそう言った。

つまり、悪魔くんたちは人間の悪意を感じ取るらしい。


「いつも、悪意を持ってるわけじゃない人は?」と、わたしが聞くと



「うん。これも人間界の言葉で言うと、いつも悪意を持ってる人、って

攻撃性障害、とか反抗性障害、って言われてるでしょう?

そこにある本、にも書いてあるように」と、ルーフィは

医学書の書架にある、アメリカの精神科医師が使う分析マニュアル

DSM-4TRを指差した。



そう、それは法廷で引用されるような、広く利用されている精神分析の

マニュアルだ。



ルーフィは、続ける。「継続して7日以上、そういう気持ちが続く人を

分類してるね。つまり、そういう人は、悪魔くんの好きなエネルギーを

出している、って事さ」


なーるほど.....。魔法って医学でもあるのね....。と、わたしはちょっとびっくり。



「だから、そういう人の気持ちが穏やかになるようにしてもいいし、

エネルギーが悪魔くんに伝わらないような、工夫をしてもいい...と、思う。」

と、ルーフィはちょっと頼りない(2w)



「悪魔くん、他の食べ物は知らないのかしら?」



と、わたしは自然にそう思った。



「それは考えた事もなかったな。Meg、君は天災マジシャンかも。」と

ルーフィ。



「天才じゃない?」と、わたし。



あ、そっかそっか...。と、ルーフィは笑い「そういうユーモアを楽しむ

ゆとりも無い人、もいるんだね。悪魔くんが憑くような人って。」




たしかに...そうかもしれない。

さっきの本を探してイライラしてた人って、なんだかイライラしたくて

してるようにも見えたし。


カウンターでお金を要求したアジア人っぽい人もそうだった。



わたしだってイライラする事はあるけれど、でも、まわりの人に

当たらなければならないほど、の、気持ちにはならないもの。





悪魔の心・理論物理学



「いらいらする、って

結局は、自分のイメージと、目の前の現実を比較してるからさ。」

と、ルーフィは言う。



「それも、今ふうに言えば、って事?」と、わたしは聞いてみた。


「そう。[認知]なんて言うね。医学だと。認知症、なんて言うね。」と、

ルーフィは、物知りだ。魔法使いさんって、そうなのね。



「アタマの中に浮かんだ、イメージ、それは時間も空間も無いから

4次元、だね。思い出のイメージに、一瞬で飛べるように。」

と、ルーフィは言う。



うんうん。そうだっけ。出会った頃の彼とか、ずっと前の事、とか。

さっきも、ハイスクールの頃のわたしを思い出してた。


そのイメージは、なーんとなく、ってだけで

まして、時間を追って記憶が呼ばれる事もない。



「だから、いらいらする人、例えばさっきの本を探してる人は

本を見つけて、図書館から帰る時間、そこまで予定してるんだよ。

でもそれは、自分の頭の中だけにある4次元的イメージで

目の前にある時間は3次元だから、地球の自転に沿って動いているだけさ。

それに、いらいらする、ってのは.....。ちょっと、認知に問題がある。」


なーるほど。そう、客観的に自分を観察すれば

いらいら、なんて出来ないわ。恥ずかしくなって。


「悪魔くんたちも4次元の世界だから、その、イメージ空間に近いんだね。

それで、憑きやすい。」と、ルーフィは言う。



「でも、ふんわりしあわせ、な気持ちも、時間が止まってるみたい。」と

わたしは思った。




「そうだね。止まってる時間のままで居たい、ってのは時間軸がなくなってるから

4次元ではない...かな?。それに、悪意が無いから、悪魔くんたちの

食べ物は無い、から、来ない。」



なーるほど。

でも、悪意を持つ人って、人種が違うのかしら?と

わたしは思った。




「うん、結局、いろんな説があるけどね。癖、なんじゃないかな。」

と、ルーフィは意外な事を言う。



「癖?」突飛な言葉に、ちょっとわたしはびっくりした。





「そう。もともと動物は、他の生き物を食べて生きてきたから

狩りをして、食べるのが好きなように出来ているけど

それは、周りから見ると侵略者だし、攻撃さ。

人間の社会だと、狩りをする機会がそんなになくて

その機能が暇だから、周りの人間を攻撃したりする[癖]に

なってしまっている人も居る、って事だろう。

僕らは、魔法で時間を旅したり、新しい知識を得たり、

文章を書いたりする。それが、狩りの代わり。

そういう事を知らない人が、偶々、悪い癖をもっちゃった。

そんなところだ...って、本に書いてあったよ、そのあたりの。」

と、ルーフィは、動物行動学や、生物社会学のある

自然科学の書架を指差した。



「....暇...。」と、なんとなくわたしは、複雑な気持ち。


暇だからって、女の子に当たるのは良くないな。

弱い者いじめじゃない。



ルーフィは、それに明快に答えた。


「なので、本当に弱いかどうか?を

悪魔くんは試してるのかもしれないね。

弱い者いじめをするような人の心を。

実際に、悪い事をすれば、警察に捕まって

本当は、強くなかったって事を思い知るだけさ、そういう人は。

強い、って思い込んでるだけなんだよ。」



そっかぁ.....。悪魔くんは、淘汰を助けてるって事、か。

と、わたしはつぶやいた。



「うん...人は、たぶん増えすぎちゃったんだね。この世界に。

だから、数を減らそうって思ってるかもね。」と、ルーフィ。



「それだと、めぐ、みたいな子って....。悪魔憑きみたいな人にも

平然として、微笑んでいるような子が、生き残るのかなぁ。」と、わたしは

なんとなくそう思った。



「それは、わからないけど....。あの子には、ほんとうに

天使が宿っているのかも、ね」と、ルーフィは、にこにこした。




書架で、カートの中の返却図書を整理している、めぐ。


ようやく終わりそうで、笑顔をみせた。




わたしとおなじ、筈の彼女に

こちらの世界で出会って、なんとなく、良かったな。

わたしは、そう思った。


図書館の閉館は、17時。

ほんの2時間ほどだったのに、とっても長く感じたのは

なんでかなぁ。


いろんなこと、あったし。



おつかれさまでしたー、って

にこにこして、図書館のアルバイトを終えて帰ってきた、めぐ。


「すみませんでしたー、ずっと、お付き合いしていただいて。

....そうだ!、Megさんも、ルーフィさんも、どこか、住むところは

こちらにあるのですか?」



....そういえば(2w)わたしは、そこまで考えていなかった。

なんとなく、過去に旅するような気持ちで、違う世界に

旅してきてしまって。


帰る方法も、まだ、わかっていないのだった。



....こっちの世界の「家」には、当然、めぐ、が

住んでいるのだし。



こっちの世界にルーフィが居ないのは、不思議だけど(笑)。



「はい、どこかのB&Bにでも泊まろうかしら。」と、思いつきで言ったわたし。


B&B、って。この地方によくある

個人のお家を改装して、朝食とベッドを提供する、お宿。


ときどき、取材でいきあたりで使ったりしてたので、つい、そんな感じで。




「そうだ!、うち、に、いらしてください。ね、ね?いいでしょ?」と

めぐ、は

にこにこするので、迷惑じゃないかなー、と思ったけど



なーんとなく、こっちの両親にも興味あったりして(笑)



ルーフィも「うん、もしかして、ほんとにもうひとり僕がいたら、面白いけど」

なんて言って。



照明が落ちた図書館のエントランスで、話してるうちに

そういうお話になって。


歩きながら、図書館通りの路面電車の停留所、まで。


不思議に、レイアウトも、石畳のあいだのレールも。

芝生の生えた軌道も、おんなじだった。



出版社のあるビルに行ったら、わたしたちが居るかもしれない、

なんて思うくらいに、そっくり。



だけど、たぶん3年前くらいの時間軸。似てるけど、違う次元。

どこで、わたしたちの世界につながっているんだろう?


それが見つかれば、帰れるんだけど。



路面電車は、沢山走っている時間だから

電停に行くと、緑と黄色の旧式電車が

すぐにやってきた。




ふたりとひとり



からんからん、と

鐘が鳴りながら、ゆっくり走る

路面電車は、のんびりしてて

なんとなく、わたしは好き。


ふだんは、ルーフィは

かばんの中なので

一緒に乗れるのも、うれしい、ひとつ。


きょうは、もうひとりのわたし、めぐ、もいっしょで

ちょっと、不思議だけど。


ふたり並んで、ケータイで写真とってみたけど



あたりまえだけど、よく似てる。(2w)。



姉妹みたい。双子かしら。


こんなふうに、姉妹が居たら楽しかったな、なんて

わたしは思った。



路面電車のステップを上がって

ながーい、緑の座席は

ほとんど、誰かが座ってて。


なので、わたしたちは

後ろの方で、流れていく景色を見ながら

吊革につかまった。


鐘が鳴り、電車は走り出す。


床の下から、油の染み込んだ木、の床を通して

モーターの唸りが、歯車を通して響いてくる。


ぐーーーーん、って。




町が、少しずつ遠ざかっていく。

いろんな匂いを乗せて。



ふと、このまま元の世界に戻れないのかな?なんて

ちょっと怖くなったりしたけど


それなら、それで

ここで生きてもいけそうな気、も

してきたり(3w)。




「何、考えてるの?」ルーフィは、わたしが何か、気にしてると思ったのかなー。



「ううん、なんでもないの。旅情ね、旅情」と、わたしは

気にしていないふり(笑)。




「おふたりは、仲がとってもいいんですねー。いいなぁ、そういうの。」と

めぐ、はにこにこ。


ちょっと、わたしは恥ずかしくなった(4w)。

そういえば、いつもはルーフィと、こんなふうに並んで歩くって

できないし。


そうなってみないと、こんな気持ちにはならないのかもしれないわ。



かばんの中のぬいぐるみルーフィ、と一緒でも

なんか、ぬいぐるみふぇち(笑)みたいだもの。






でも。


もし、わたしとおんなじだったら。

めぐ、にも


もうひとりのルーフィ、が

現れるのかしら....?。



「そうかもしれないし、そうでないかもしれないね。

全く同じ世界じゃなさそうだし。」と、ルーフィは感想を述べた。





路面電車は、次の電停に着く。

お客さんが、前の扉から降りて、後ろから乗ってくる。

学生さん、お勤めのひと、おじいちゃん、おばあちゃん....。

それぞれに、それぞれの思いを抱えているみたいだけど

悪魔くんが憑いているような人は、あんまりいないみたい。



それに、ちょっと安心したわたし。



わたしたちのいた、世界にも

悪魔くんは、いたのかな?


気づかなかったけど。




「そう、気がつかないで済むなら、その方が幸せって事もあるね。

僕らが、こっちの世界に居る悪魔くんたちを、みんな

魔界に帰ってもらう、なんて

ちょっと大それた気持ち、かもしれないし。」と、ルーフィは

現実を、言葉にした。



心の中でイメージするのは簡単だけど、実現させるのは

難しい。


でも、イメージも4次元、で

悪魔くんの世界も4次元。だったら、上手くいくかも....。なんて

ちょっとイージーなのは、わたし。



悪魔くんだって、好きでこっちに来てるんじゃないかもしれないし。




いくつかの停留所を過ぎて、わたしたちの(?)家のあるあたりに来た。


路面電車は、ゆっくりと止まる。

わたしたち3人は、前のドアから降りた。


通貨は同じコインだったから、めぐ、は定期で

わたし、はコインで電車賃を払った。

未来の時間が書いてある定期、じゃ

無賃乗車になりそうだし。



ルーフィも、一緒に。


からんからん、と

鐘を鳴らして


路面電車は、ゆっくりと港の終点まで行くのかしら。



「終点にね、温泉があるの」と、ルーフィに言うと


「へぇ、温泉。いいねぇ。混浴?」なんて、ルーフィ。



「そんなわけないでしょ、もう!。」と笑うと


「ほら、ヨーロッパの方って水着で入るじゃない。」って、ルーフィ。



「そういうのもあるみたいですね、ジャグジーとか」って、めぐは言う。

「でも、一緒はやっぱり恥ずかしいな」と、すこし頬赤らめて。



そうよね(w2)。水着だってねぇ。



「なーるほど。お風呂ってひとりで入るもんだしね。イギリスだと。」

と、ルーフィ。



そのくらい、同じ人類でも習慣は違う。


まして、悪魔くんと人間、それと、魔法使いさんじゃ...。

風習は違ってて、ふつー、よね。



違う世界で、それぞれに生きるのがいいのかしら....。


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