魔界・魔法使い




路面電車の通う通りは

少し広いんだけど、軌道敷が真ん中で

両脇に、くるまが通れる道になってる。


そのくらいの広さで、電車がゆっくりゆっくり通ると

みんながよけていく。


そんなふうに、人間と、悪魔くんも

それぞれの世界で生きていけばいいな。


悪魔くんから見れば、人間の方が厄介者かもしれないし。


...まあ、人間は魔界には行きたがらないだろうけど。



特殊な人を別にして。



...そういえば、ルーフィも、そのご主人様も魔法使い、って

ことは....。

魔界の人なのかしら....。?



家に向かう細い路地は、ちょっと薄暮れで

レンガの壁、白壁、塀の上で

にゃんこがお散歩。



普遍的な風景を見ながら、ここが異世界だなんて

言われても、ぜんぜん実感できないわたしは

ルーフィの出自、を思った。



「ねぇ、ルーフィって、悪魔くんの世界の人なの?」と言うと


彼は、楽しそうに吹き出した(8w)。



「ぼくは、ふつうの人だよ、君と同じさ。ご主人様がね、僕を

見つけてくれて、魔法を使う力を育ててくれたのさ。」と


夕暮れの風に、さらりとした短い髪を遊ばせながら、ルーフィは

一番星を仰ぎながら、さりげなく言った。



....。それだと、わたしと同じ...。なのかしら?、あ、それで....。


めぐ、もおんなじだって。そう思ったのね、ルーフィ...。




「魔法使い、っていろんな人がいるけど、僕らは

もともと、魔界とは関係ないひとたち。

もっている能力を、引き出せる人なの。


ほら、芸術家とか、技術者みたいな。

昔は、お医者さんのかわりだったりしたんだよ。」

と、ルーフィ。



そうなんだ....あ、そういえば。魔女さんが

薬を作ったりした、ってお話を読んだ事あるわ....。



「その他に、魔界とね、契約して

魔法を貰う代わりに、悪魔に魂を売る人もいるし....。

さっきみたいに、魔法の存在もしらずに

悪魔くんのおやつになってしまう人、もいる。いろいろだね。」


と、ルーフィは、その、魔界と人間界の境が曖昧だ、って事を

伝えた。






at home



めぐ、は

悩みなんてない、そんな感じに楽しそう。

坂道を、っとっとここ、と歩いて

お家へ向かう。


あたりの雰囲気も、まったくおんなじ感じなので

ここが異世界だ、って

わたしは感じ取れない。


「はぁい。ここがあたしの家ですー。」って

招待されたおうちは、まったく


わたしの世界の、わたしの家と変わらない。



3年前は、こんなだったかな。そういう感じ。


おばあちゃんのトマト畑も、三角のお屋根も。

なんにもかわらない。



「正直...驚いたなぁ」と、ルーフィは魔法使いなのに(2w)

おもしろいことを言っている。



「うん...。」と、わたしも同感。



これで、おとうさん、おかあさんも

たぶん、おんなじなんだろうけれど....。



でも。


わたしの事を、なんて言えばいいのかしら。



「ありのまま、おっしゃって下さって、大丈夫だと思います。」と、めぐ、は

言う。



「どうして?」とルーフィは尋ねる。




「このところ、不思議な事が多いので。未来から、わたしのお姉さんが

来てくれた、と言っても

父も母も、不思議には思わないと思います。

それに、魔法使いさん、なら....。

この町でなく、ほかの町には住んでいるとも聞きましたし。」と、めぐ、は

当然に、変わった事を言うので、わたしは驚いた。


「....。」ルーフィは、何も語らなかった。



この世界が、そういう時空なのは

たぶん、悪魔くんが出てきているあたりから、そんな予感はしていたけど。


魔法使い、って、ひょっとすると魔界の使徒?


だとすると、魔界からの侵略、って事かしら....。




いろいろ、空想していたけれど、でも、めぐ、は

ふんわりと


「さあ、どうぞ.....。」と、にこにこと玄関に、わたしたちを

招き入れてくれた。




ドアーがちょっと、渋い感じのところも。

玄関の明かりが、ぼんやりとしているのも。


ぜんぶ、わたしの家と同じ。



なのに、こっちの世界には、悪魔くんが忍び寄っている。


それに気づかなくって、住んでいるひとたちは

世の中が住み難くなった、怒りっぽい人が増えた、

そんな風に思ってるとしたら.....。!?



守ってあげないといけないわ....。

そう、わたしは思った。



でも、別の世界のこと、と言っても

過去を変えてしまったら、時間旅行者としては

困った事にならないかしら.....?。





今の自分があるのは、過去の自分があるから。

異世界の過去の自分.....。うーん、わかんないよぉ(3w)。



「ねぇ、ルーフィ?」と、先生に聞いてみる事にした(笑)。



「異世界だったら、変えても平気だと思うけど。3年後の君は

こことは別の世界の君、だもの」と、正解が、ルーフィ先生から(2w)。




なーるほど。



「お気になさらなくても大丈夫です」と、めぐ、は

時々、丁寧な言葉になる。


不思議だなー、と、学校の図書室であった時の

台風みたいな印象とは、ぜんぜんちがってて。



ルーフィも、それに気づいて。


「もしかすると....この子、ほんとに天使さんが宿っているのかも。

それで、時々言葉遣いが変わったり....おてんばになったり。」



まさか....。



でも、それだと、悪魔くんが、この子を狙って

いじわるをしてる、って事...かしら。




「その推理が正しければ、この世界には、魔界の者と

天界?の者も居る、って事になるね。」と、ルーフィは冷静に。




「ふつうは、住むことなんて出来ないんだけど」と、付け加えて。




めぐ、に

紹介された、おとうさん、それと

おかあさん、は


わたしの両親にそっくりだった。当たり前だけど。


でも、なんとなく......。めぐ、と同じ雰囲気がしていて。


わたしの両親のように、人間的な、Earthyな感じは

あまりしなかった。



「ひょっとすると、ファミリーみんな、天のお使いなのかな」と

ルーフィは、おもしろい観察をした。



「それで、ルーフィやわたしを訝しく思わないのかしら」と、わたしは

感想を言うと



「そうかもしれないね。Megの世界には、僕、魔法使いが降臨した。

代わりに、この世界では、天の使いが、めぐ、君のもうひとりの家族のところに

降臨した。」と、ルーフィは、話をつなげて考えた。




「どっちも、なんか理由があるのかしら」




「それは、わからないけど....。なんか、前世、と言うか

家系の先祖に、理由があるのかもしれないね。

Megが、魔法を修行しなくても時間旅行ができた、のは

そんな感じかも。」と、ルーフィはそう言った。




めぐ、の

両親に促されて

本当に暖かいおもてなしを受けた。


「いつまでも、いらしてくださっていいんです」と、めぐ、のお母さんは

そう言ってくれた。


わたしの母とそっくりなので、なんとなく妙だけど(3w)。



お父さんは、お蕎麦を手打ちしてくれて。そんなところまで

わたしの父と同じだった。




ディナーを終えて、とても楽しくて寛げたのだけど。

だから、めぐ、の一家が


天のお使いに。


なっているんだったら、やっぱり、お手伝いをしなくっちゃ。


そう、思ってしまうんだった。





たぶん、天使さんだったら

悪魔くんたちと戦う、って事じゃあなくって


悪魔くんたちが、自然に

魔界に帰ってくれる、そう願うんだろう。


だって、天のお使い、って

神様のお使いって事だもの。



わたしは、そんなふうに思った。



2階の、めぐ、のお部屋に行ってみたけど

そこは、わたしがハイスクールに行ってた頃

そのまま、だった。


ルーフィに見られると恥ずかしい、って

めぐが言うので(w)



ルーフィは、あの、屋根裏部屋に

ホームステイする事にした、らしい。

魔法使いだから、魔法で

好きに使うんだろうけど。



わたしの家に居るより、ほんとの姿で居られるから

かえって楽だ、って言ってたり(w)


お気楽魔法使いルーフィめ。(3w)。




それから、わたしたち3人で

裏山にある、温泉に行く事にした。



歩いてすこし、の距離にあるそこは


わたしの世界にある、それと同じ。


ルーフィは、魔法使いなのに

温泉も好き、なんて



ヘンなイギリス人(笑)。





「混浴かなぁ。」なんて、ヘンな事言うんで


めぐ、は、首筋まで真っ赤になって恥ずかしがって。



「ヘンな事言わないの!若い娘が居るんだから!」と、わたしがはたくと


ごめんごめん、ってルーフィが腕でよけたふり。



めぐは「ごめんなさい、でも、仲よしでほんとに、羨ましい。

そんなカレシ、ほしーなぁ。」って。


それは、天使さんの気持ち、それと、めぐ自身の気持ちが

両方混じってるみたいな、そんな言葉の雰囲気だった。



それに、ルーフィも気づいて

「宿ってる天使さんは、とっても愛らしい感じの

まだ、天使さんになったばかりの子、みたいだね」と。


めぐ、自身は

それに気づいているのかどうか、わからないけれど。


こんなに愛らしい子だもの。カレシなんてすぐできるわ。


そう、わたしは思った。



ルーフィは「うん、でも、もし、すこしでも邪悪な心を持ってたら

天使さんが寄せ付けないだろうけど。」とも言った。



おなじような、天使さんが宿ってる男の子が

ボーイ・フレンドになるだろうね、とも。



そういう異世界なら、わたしも住んでみたいわー(3w)。






温泉は、素朴な山里の中にあるわりに

きれいで、モダーンな建築。


レンガ色の装飾タイルに、ブロンズのようなオーナメント。

古代を模した、近代デザインで

最近人気のあるタイプだった。



国営の施設なので、気楽に使えて

わたしも、よく来ていた。


もちろん、わたしの世界での、話。




混浴でなくて残念そうなルーフィ(笑)と

入り口で分かれて。


殿方湯、は右手の岩風呂。

婦人湯、は左手のジャグジーつき。


と、曜日で代わるようになっていて


このあたりは、東洋ふうの凝った演出で

これも人気があった。



平日なので、空いている温泉の

縄のれんをくぐると、ちょっと変わった

お湯の香り。


それも、慣れた感じ。



床には、籐の敷物。ロッカーは、木造で

まだ、真新しい感じ。



脱衣籠も竹製で、なんとなく、アジアに迷い込んだような

不思議な感覚が、わたしは気に入っていた。



女同士なので、何も気にする事はないけれど

髪を巻き上げて、お湯に当たらないようにして

ひょいひょい、とオールヌード(笑)になって。


めぐ、と一緒に、お風呂場に入った。


「ほんとに、なれてるんですね」と、タオルを前にした

めぐ、は


わたしより、すこしだけ起伏の少ないボディー(w)だけど

透き通るように白い肌で、ほんとに天使さんみたい。


ひざにある、幼い頃の傷あとまで同じで


それを、めぐ、は見つけて「ほんとにいっしょだー」と

笑うので、とってもかわいくて

抱きしめたくなっちゃった(w)。



めぐ、の3年あとが

わたしみたいにならないで、天使さんみたいに

かわいいままでいてほしいなー。


そんなふうにもおもったけれど。



「Megさん、ってステキですぅー。ルーフィーさんみたいな

カレシもゲットして、レディーだし。」って、めぐ、は言う。でも


レディー、なんて程遠くて。


だんだん、時間が過ぎていってしまうのを

ちょっと怖く思ってたら、いきなりタイムスリップ(2w)して


こっちに来てしまったんだもん。



過ぎてしまったわたしの時間は、めぐ、みたいに

輝いていたのかしら.....。



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