時間量子

眠っている魔術師は

ルーフィみたいに涼しい雰囲気の美形で

思わず、頬を寄せたくなるような(笑)。


なんとなく、お伽話みたいに

ふらっ、とkissすれば目覚めるかな?


なーんて、ちょっといたずらしたくなりそうな

そんな感じ。



ルーフィは、見透かしたみたいに

「kissしても、起きないよ、たぶん」



なんて言うから、わたしはちょっと戯れに「こないだ、kissしてみたらって言ったじゃない」って

言おうかな、と思って

ルーフィに振り向いた。



でも、言わない方がいいかな。(笑)


ルーフィは、真面目な瞳だった。




「眠る前の時間に旅行して、ご主人様の眠りを止める事ってできないのかしら。」

わたしは、ひとりごとみたいにそう言った。


でも、ルーフィは真面目に「うん、僕もそう考えた。最初にそうしてみたんだけど、彼の意志が固かったし、魔法の力が強すぎて

僕じゃどうしようもなかったんだ。それで、誰かの助けが必要だと思って

さ迷っていたら、君に出逢った、と言う訳。」


ルーフィは、冷静に深刻な話をした。ご主人様の事を彼、と呼ぶあたりは

意外にFriendlyな関係なのかもしれないな、と

わたしは思った。


ふつうの英国的風習なら、古来の階級制的な感覚が残っているから。「いつまで眠っていられるのかしら」ふと、ひとりごとのように私が呟くと

「うん、彼は魔法使いだから...たぶん、代謝を極端に下げてるはず。自分が意図する時まではね。」


「魔法使いって不死身なの?ずいぶん若く見えるけど」


見た感じ、ルーフィより若く見えたりもする。


「うん、ほら、時間旅行をするって事はね、物理時間とは関係なく生きてるんだね。」



そういえば、魔法使いって絵本だとずっとおばあさんだし。生まれた時からおばあさんだったのかなぁ、なんて思った。



「たとえば、夢の中なら時間はないよね?いつまでも眠っていたいって思う事あったりする。それと似てるかな、魔法って。」


ルーフィは、説明しにくそうにそういう。


「じゃあ、彼の夢の中に入れば何か解るかしら」



と、ルーフィに振り向いてわたしは言う。彼は

「夢の中に行く魔法があればね」と

微笑みながら両手を振った。



じゃあ、どうすればいいの?と、わたしはふと閃いた。


flash☆☆見る前に跳べ、って

古い格言みたいに(笑)

とりあえず跳んでみた。


どうしてかわからないけど行ってみたい、そう思ったから。


光が川のように流れ、褶曲している。

煌めいているみたい。


触れてみたい。そう思ったけど

なんとなく、触ってはいけないものみたいに感じた。



「そう、un-touchable」


roofyは、気づくとすぐそばにいた。


緊張していた気持ちが、さらり、と解れ

わたしは、自然に彼にもたれた。



「ここ、どこ?」


さあ、どこかな、と

彼はふつうに答えた。


そのことばより、とても近くにある彼の温もりの温かさで

ここが夢の中じゃない、そう思った。


触れてはいけない、そう彼が言った光の川よりも

わたしは、何か触れてはいけないものに触れてしまったような、そんな気がした。

「この光の川...なんだか」

と、わたしはきらきらしている水面を見て。



「うん、それは時間量子。ひとつひとつがね、時刻なんだ。褶曲してるのは、たぶん時間が歪んでるところ」


と、ルーフィは涼やかに答える。



「じゃあ、時間旅行してる、ってところ?」

と、わたしはルーフィを見上げて。

彼はとっても背が高いな、って

間近で見ると特にそう思う。


最初に、お屋根の上で逢った時も

そうだったけど、あの時は座っていたし。


お屋根から落ちる時だったから

感じてるゆとり、なかった。



ルーフィは、川を見ながらつぶやくように

「そうかもしれないし、夢を見ているのかもしれない。」




「夢?」







「うん、夢を見ている間って、時間も空間もないよね」





わたしは納得。そう、夢って自由きままで

どんなところにもいけちゃうし。いいなって。

でも、ふと気づく。

これが、ルーフィのご主人様の時間に影響している

時間量子の流れで、褶曲しているところ、淀みが「夢」だったら..


反射的に、わたしは淀みのひとつに近づいて。


思いの外深くて、なにか

吸い込まれるような感じがして


わたしは、ふらり、と

淀みのそばに...







「あぶない!」

ルーフィが大きな声を出して

我に帰ったわたし。

でも、遅かった。



burn!☆

spark☆


すごい閃光と炎が上がった。


わたしを助けようとして、ルーフィが

時間量子の流れに飛び込んで。


それからは、わからない。

煙と炎で、どうなっているのかも。


「ルーフィ、ルーフィいーっ!」わたしは、力の限り叫んだ。


でも、無限大空間の果てに、虚しくその声は消え去った。ゆらり、と

遠くからひと影。


「ルーフィ、ルーフィなの?」


わたしは尋ねる。叫んでいたかな。もう、わかんない。



残念だけど、と静かに告げたその人は...涼やかな瞳、すらりとした長身。


「あ、あなたは!」


眠っていたルーフィのご主人様だった。


ルーフィが御面倒を掛けまして、と

若々しいイケメンに似合わない老練な挨拶をした。

そんな所は、やっぱりイギリス紳士らしい。でも、

どうしていきなり起きたの、と思わずわたしは聴いた。


「ルーフィが無謀にも、時の淀みに飛び込んだから」


と、彼はさっぱりと答えた。



じゃ、ルーフィはどうなったの?と、わたしは反射的に詰問口調で。


「いや、わからない...たぶん、どこか遠い次元に飛ばされた...か。」



「か?」

わたしはすこし、苛立った。

あまりに冷静なので。

だって、自分の召し使いが居なくなった、と言うのに。


すこし怖い顔になったのか、わたしを見る彼の視線が少し、変わった。


「それか、消滅したか」



消滅って...死んじゃったってこと?そんなのないよ、そんなのって。だっって、せっかく仲良しになれたのに....


思わず、涙が零れた。


もう、どうでもよくなった。



「大丈夫、ルーフィは帰ってくる。魔法使いだからたやすく死にはしない筈さ。咄嗟に時間を飛ばしたかもしれない。時間量子の流れの中で。だから、時間エネルギーが反発しあってどこかへ飛ばされたのだろう」


科学的に、ルーフィのご主人様は答えた。でも、優しい声で。

泣いている私を宥めながら。なぜ、眠ったりしたの?とわたしは、尋ねた。



彼は、静かな声で「そう、未来を変えようとしたけれど、私の力不足だった。

時間エネルギーに変化が起き、人々は自然な時の流れを忘れた。

意味なく急ぎ、苛立ち、争い。それは、自然な時間エネルギーの存在を忘れてしまったから....」



わたしは思う。そういえば、ルーフィに出会う前はそんな事もあった。理由なく焦り、苛立ち、誰かに当たり。


都会に住んでると、そんな事もある。いや、それが普通かしら。



だけど、ルーフィに会って、優しい気持ちに戻れた。自然な時間を思い出した。

苛立ったって、焦ったって1分は同じ、そうだもの。


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