青い水平線

...そうね。



ため息をつくような、そんな気持ちで

わたしは、一階の屋根の稜線に腰掛けて

遠い水平線が暮れていくのをぼんやりと眺めた。



丘の上のこの家からは

岬が、のどかに水平線と戯れているようにも見える。


夕暮れになると、空と海との境が

だんだん、分からなくなってきて。


そんな瞬間が好きだった。




...ルーフィ....



彼は、屋根が好き、って言ってたから

ひょっとして、もう帰ってきてるかも。



...ルーフィ!



彼が、そばにいるような気配を感じて

わたしは、振り向こうとした。

だけど、三角屋根の稜線は足下が怪しい。


小鳥が、風の強い時

小枝でふらふらするように

わたしは、バランスを崩しそうになった。



「あ!....」



後ろに転ぶ!



背中を反らしてみたけれど、でも

ゆっくりと後ろに落ちてゆき...



...わたしって、バカ...



今度こそ人生は終わりだわ....



そう思っているわたしには、ショパンの別れの曲が

この世との別れ、葬送行進曲のように聞こえた(笑)






あれ?





思わぬ感覚に、わたしは気づく。

ふわふわとした、大きなものに支えられている。



..そう、天国ね、天国の雲さんだ。



♪天国良いとこ一度はおいで(笑)


なんて、ショパンが歌う筈もない。




「天使でなくて残念だったね」




透き通ったその声の主は....!




「ルーフィ!」




ほんとに、ほんとに天国がやってきた。

too much heaven!




ショパンのメロディは、英雄ポロネーズに変わっていた。

いままで、

あまり好きじゃなかったけど、この瞬間

わたしは、ショパンも小山さんの演奏も大好きになった(笑)



いままで、

あまり好きじゃなかったけど、この瞬間

わたしは、ショパンも小山さんの演奏も大好きになった(笑)




「無茶するなぁまったく。夏への扉を無理矢理こじ開けようとしたのは君がはじめてさ」




ルーフィーは、ほほえみながらそう言った。


彼の腕の中にいると、しあわせ。

気が遠くなるみたい。




「...なんとなく、ルーフィーがそばに来ているみたいな

気がして」


わたし、素直にそう言った。



「....君は、本物かもしれないな。」


ルーフィーは、真顔でそんな事を言う。



そこに、魔法使いがいる、と言う事が感じ取れるのは

能力がある可能性がある、と。



「...だから、最初から僕に出会えたのかな。」

ルーフィーも、それが偶然かどうかはわからない。


そう言っていた。


「でも、どうして戻ってこれたの」



わたしは、ルーフィに支えられたまま

三角屋根の稜線で、そう尋ねた。


父の部屋から聞こえる音楽は

ポリーニに変わった。

きらびやかなsteinway&sonsの音色、心地よい。



「うん、まあね...君は能力があるみたいだから

まあ、見られてもいいだろう、って言われて」


ルーフィーは、空を仰いで。



「閻魔大王様みたいな人に?」

とっさに、わたしはイメージした。

デーモン小暮みたいな人が、マントを着て

パルテノン神殿みたいなとこでルーフィを見下ろしてる図。



ルーフィは、笑って

「そんなのじゃないけど」と。



軽い笑顔の彼って、とってもさわやか。

かわいいな、なんて

わたしは、ちょっとときめいたりして。



「でもね」ルーフィーは

すこし真顔になって。



ルーフィーのご主人の、眠りを醒ますキッカケを

わたしと探し当てるまで、もとの世界に戻れないんだ。と


そんな風に、さらりと言った。



「ちょっとまって、それじゃ

わたしとずっと一緒にいるってこと?」



それは、ちょっと困る。

だって、それじゃルーフィと同棲してるみたいじゃない。


「大丈夫さ、心配ない。」



もともと、ほかの人に見られちゃいけないんだから

誰か居る時は、ぬいぐるみをかぶってるから、って。

ルーフィーはほほえみながら。





...でもなぁ。部屋に一緒に居るって

ちょっと恥ずかしいな。



ぬいぐるみ着てたって、中身はルーフィなんだし。




「じゃあ」とルーフィは

ぬいぐるみのわんこに戻った。



わたしは、ルーフィーを抱えて

出窓から屋根裏に戻った。


屋根裏部屋、ちいさいころ

子供部屋に使ってたから...



「そうだ!この部屋使ってよ、ルーフィー」




「いいの?」



「うん、わたしも、その方がいいもの。」




「ふぅん、僕はどっちでもいいけどな」


と、飄々とルーフィーは。


でも、ぬいぐるみ着てると

なんか、その台詞がちょっと似合わないみたいで

わたしはくすり、と笑った。


ルーフィーは、わたしを見上げて


にっこり、と笑った。


二回目の日曜日は、なんかラッキー。







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