第111話 哀しき宿命に立ち向かう機人たち 12


 敵を追う阿修羅のバイクは、混みあう車道を黒い獣のように疾走した。


 まるで先を征く敵の車両が見えているかのようによどみなく走行するバイクに、運転に不慣れな僕は見失わないようついてゆくのが精一杯だった。


「ジュナ、僕の端末を見てくれないか。阿修羅さんの端末と接続されてるから、敵がどのくらい先まで行っているかわかるはずだ」


「ちょっと待って。……あっ、これね。ここは……随分先だわ。追いつけるかしら」


「追いつけなかったらごめん。……これ以上距離を詰めるのは無理だ」


 僕が音を上げた瞬間、道が空いてバイクが一気に急加速した。僕が慌ててアクセルを踏むと、開いた車間に割り込むように一台の黒い車両が姿を現した。


「車高が高いな……これじゃバイクが見えない」


 僕が舌打ちした瞬間、前の車両が車体を回転させながら急減速した。


「――うわっ!」


 僕が急ブレーキを踏むと、悲鳴のような音と共に車体が止まった。


「……ジュナ、大丈夫?」


「ええ、私は大丈夫よ。でも端末を落としちゃって……ごめんなさい」


「いいさ、そんなこと。……しかしなんてことするんだ、あの車。もう少して側面衝突するところだったぞ」


 視界を塞いでいる黒い車体に僕が毒づくと、スライドドアが開く音がして中から見覚えのある人物が姿を現した。


「久しぶりだな、機人。お前が『イグニアス』だとわかっていればあの時、身柄を拘束していたものを……よくも『1』を殺したな」


 目の前に残忍な笑みを浮かべて立ちはだかっているのは、オスカー博士を連れ去った機人――『ゼノシス2』だった。


「ジュナ、身を低くしてここから動かないで」


 僕はそう言い置くと、車の外に出た。


「お前たちの言いなりになどなるものか。オスカー博士を返せ」


「まだわかっていないようだな。今のお前はそういう事を言える立場ではない」


 僕が身構えると、『ゼノシス2』の胸が開いて無数の多関節アームが僕の方に伸びた。


「……うっ」


 後ずさろうとした僕の身体を複数のアームが捕え、高々と持ち上げた後、黒い車のボンネットに押しつけた。


「動けないよう、ピンで留めてやるぜ、虫けら」


 ゼノシスはせせら笑うと僕の身体を押さえつけ、釘打ち機のような機械で僕の両手両足に金属の杭を突きさした。 


「うあああっ!」


 四つの杭に手足を貫かれ、僕はボンネットの上に標本のように固定された。

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