第110話 哀しき宿命に立ち向かう機人たち 11
「阿修羅先生の記憶ユニットを持ち去ったのは、何者なんですか」
「おそらく『ゼノシス』一味でしょうね。彼女の記憶装置には『タナティックエンジン』を扱った時の治療記憶もたくさん詰まっているはずだから」
僕は複雑な気分になった。もし敵が僕の正体を知っていれば、連れ去られたのは僕の方だったに違いない。何しろこの身体の中には『タナティックエンジン』の現物が組み込まれているのだから。
「オスカー博士に阿修羅先生の記憶……奴ら、いったい何を企んでいるんだ」
僕が思わず歯ぎしりすると、阿修羅のポケットでアラームのような音が鳴った。
「記憶ユニットに組みこまれている発信機が動き始めたわ。彼女の身体から取り外されると自動的に起動するようになってるの。いわば盗難防止装置ね」
「じゃあユニットを盗んだ犯人が今、どこを移動しているのかがわかるんですね」
「そういうこと。私は一応、追ってみるわ。ユニットを取り戻すまでここは休業ね」
阿修羅の言葉に、僕は自分の中の何かが動き出すのを感じた。
「阿修羅さん、僕も行きます。お世話になった人の危機を見過ごすことはできません」
「……そう。どうしてもと言うなら、止めないわ。裏にあの子が往診に使っていた車があるからそれを使って。私はバイクで追う」
「ありがとう、阿修羅さん」
僕は阿修羅に礼を述べると、ジュナの方に向き直った。
「ジュナ、阿修羅先生の記憶を奪った奴は、リーダーを連れ去った連中の仲間だ。うまく行けばリーダーの居場所もわかるかもしれない」
「私も行くわ、基紀君」
「だめだ。危険すぎるよ」
諭そうとしてジュナと向き合った僕は、はっとした。僕を見るジュナの目には、強い決意の色が浮かんでいた。
「……わかった、行こう。でも本当に危険な状況になったらそこで諦める。いいね?」
「いいわ。行きましょう」
ジュナが頷くと、壁際で何かを探していた阿修羅が振り向いて僕に何かを放った。
「車のキーよ。運転できるかどうかは知らないけど」
阿修羅は僕に言うと、どこから見つけたのかとんでもなく大きな武器を構えてみせた。
「それは……」
「あの子が使ってたプラズマライフルよ。治安部隊の友達とよく、撃っていたらしいわ」
阿修羅の言葉が、僕のある記憶を刺激した。治安部隊の……そうか、グレゴリが言っていた、自分より大きなライフルを持っている友達というのは阿修羅先生のことだったのか。
「じゃあ、先に出てるわね。見失っても責任は持たないわよ」
阿修羅はそう言うと、ライフルを手に裏口の方へと向かった。
「ジュナ、僕らも行こう」
僕はマグナムの感触を確かめると、ジュナに言った。
「ええ、絶対、見失わないようにしましょう」
僕らが建物の外に出ると、黒いハーレーに跨った阿修羅が今にも走りだそうとしているところだった。
僕は小さなワンボックスカーに乗りこむとキーを差しこみ、ジュナと共に獲物を追って走りだした阿修羅の後に続いた。
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