第112話 哀しき宿命に立ち向かう機人たち 13


「さあ、最後の仕上げだ」


 ゼノシスが帽子を取ると、無表情な顔が二つに割れて中からドリルと注射器をひとつにしたような物体が姿を見せた。


「こいつでお前の身体に液化プラスチックを流し込んだあと、ゆっくりと『タナティックエンジン』をいただく」


 ゼノシスがそう言い放つと、首がケーブルのように伸びてドリルの先端が目の前に迫った。僕が思わず身を捩ると、回転する刃先が胸の真ん中に突き刺さった。


「ぎゃああっ」


「兄者を殺された恨み、ここで晴らさせてもらうぞ」


 憎悪に満ちた声と共にドリルの回転が止まり、熱せられた液体が体内に注ぎこまれた。


「――ううっ」


 液体は僕のギアやケーブルに絡みつくと、端の方から凝固していった。このままでは全身が内側から固められ、機能が停止してしまう。僕が縛めから逃れようと再度もがいた、その時だった。僕の左腕が肘から外れ、断面から飛びだしたチェンソーがドリルのケーブルをを切断した。


「――があっ!」


 ドリルを切り離されたゼノシスの本体は、苦し気に呻くと大きくのけぞった。身体を起こした僕は歯で右手の杭を引き抜くと、マグナムを抜いた。


「これ以上、僕らに近づくなっ!」


「イグニアスごときに、我々が殺せるものかあっ」


 雄叫びと共にゼノシスの腹部が開き、グレネードガンが姿を現した。


「死ね、イグニアスっ」


 僕はグレネードガンの銃口に狙いを定めると、マグナムの引鉄を引いた。次の瞬間、空気を震わす轟音と共にゼノシスの身体が四散した。


「二人も……同型の機人を殺してしまった」


 僕が手足から杭を抜いてボンネットの上から路上へと飛び降りた、その時だった。背後で「いやあっ」という悲鳴が上がり、僕はすぐさま振り返った。


「基紀君っ」


 僕の目に映ったのは、別の敵がジュナをトレーラーの荷台に押しこもうとしているところだった。


「やめろっ!」


 僕が駆けだそうとした瞬間、トレーラーの側面から機関銃がせり出し、僕に狙いを定めた。僕が反射的に伏せると、耳元でアスファルトを穿つ音が響いた。


「――ジュナ!」


 荷台の戸を閉める音に顔を上げると、武器をこちらに向けたまま走りだすトレーラーの背面が見えた。


「ジュナ――っ!」


 僕はその場に足止めされたまま、ジュナの名を叫んだ。去ってゆくトレーラーを呆然と見送りながら、僕は今すぐにでも敵の本拠地に乗り込んで行きたい衝動にかられていた。

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