第99話 荒野の風に吹かれる機人たち 31


 再び車に乗り込んだ僕と拓さんは、外へと続くトンネルの手前で車を停めると、車の外に出て徹也が戻って来るのを待った。


「拓さん、徹也は……本当にこの街に残ると思う?」


「わからんな、こればっかりは。命がけで守った女が眠る場所だ。簡単には捨てられないだろう」


 僕はたった今、後にした街を振り返ってため息をついた。徹也、ここがお前の終点なのか?お前を残して拓さんと僕だけで旅を続けても、お前は本当に後悔しないのか?


 僕がそんな未練がましい思いを頭の中で転がしていた、その時だった。


「……まだ街の中にいたのか、機人」


 突然、背後で聞き覚えのある声がした。はっとして振り返った僕の前にいたのは、ナナに『機喰虫』をけしかけた男だった。


「ふん、逃げだすのに五、六体も機人を壊さなきゃならんとは、まったく腹立たしいぜ」


 男はそう言って不敵に笑うと、僕に銃を向けた。


「まあ、貴様を倒してノーマッド様に献上すれば、不愉快な気分も少しは晴れるってもんだ。……くたばれ、機人」


 ――だめだ、間に合わない!


 車の方を見て僕が絶望しかけた、その時だった。轟音が響いたかと思うと、男が前のめりに崩れるのが見えた。


「……まだ敵が残ってるのに油断しちゃだめだ、基紀」


 銃を手に倒した敵の背後から現れたのは、徹也だった。


「徹也……ナナは?」


「店で眠ってる。言いたくなかったけど、お別れを言ってきたよ。もう大丈夫だ。行こう」


「本当にいいのか?」


「ああ。神様でもない限り、この街にいてもなにもできない。哀しい時間が続くだけだ」


「よし、わかった徹也。行こうぜ。あとは時間がなんとかしてくれる」


 拓さんはそう言うと、僕と徹也に車に乗るよう促した。エンジンがかかり、正面のシャッターが開くと、僕らの前に外の世界へと続く暗いトンネルが現れた。


「あの向こうに、俺たちの生きる世界がある。辛いだろうが、ひとまず戻るとしようぜ」


 拓さんはルームミラー越しにそう言うと、前を見てワゴン車のアクセルを踏みこんだ。

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