第100話 哀しき宿命に立ち向かう機人たち 1


「周さん、拓さんは?」


「裏の工房で、ライフル直してるよ。給弾装置がいかれたみたいね。腕利きよ、あの人」


「そうですか……徹也は?」


「寝室から出て来ないね。でも若い人にはよくあること。心配いらないよ」


 僕はため息をつくと、裏の工房へ向かった。『ハートブレイクシティ』がさほど遠くない場所にあるとわかった今、本当ならすぐにでも旅立ちたいところだが、徹也の心の傷がいえるまでは危険と隣り合わせの旅に出ることはためらわれるのだった。


「拓さん」


「おう、どうした?」


 工房の作業机にライフルを乗せ、作業に没頭していた拓さんは僕に気づくと顔からルーぺを外した。


「徹也のことだけど……あと数日は出発できなさそうな感じなんだ」


「まあ、そうだろうな。放っておけよ。こういう時はたとえ友達でも何もしない方がいい」


「うん……」


 僕は工房の隅にあるデッキチェアに腰を下ろすと、物思いにふけり始めた。虫も殺せなかった徹也が恋をした途端、それまで怯えていた人間に銃を向けるようになった。ジュナの身に危険が及んだ時、僕は徹也と同じように振るまえるだろうか?


 そんなことを考えていると、ふいにポケットの中の端末が鳴った。


「よう坊主。ゴメスのところでひどい目に遭ったらしいな。まだ『ハートブレイクシティ』には行かないのか」


 通話の相手は、エレファント黒崎だった。


「ええ。実はナナが……徹也のガールフレンドが騒動の犠牲になって、そのショックで徹也が塞ぎこんじまってるんです」


「そうか。そういうときは百戦錬磨の猛者でもおとなしくなっちまうもんさ。気晴らしにお前さん一人でもこっちに来いよ、ダナの姉さんがやってるバルでアマンダが働いてるんだ。美人の姿を拝めば憂さも晴れるのが男ってもんだ」


「そういうものかな……」


 僕は曖昧な返答を口にした。黒崎の好意は嬉しかったが、いそいそと出かけてゆくには僕らを取り巻く状況はあまりにも重すぎるのだった。


                ※


 アマンダが働いているという店は、工場労働者が多いブロックにあった。


 教えられた店に足を踏み入れると、褐色の肌をした美しい機人が「いらっしゃい」と大きな目を輝かせて僕を出迎えた。


「この辺りじゃ見かけない顔だけど坊や、もしかしたらファクトリーで生まれたばかりの機人かい?」


「いえ、違います。湾岸地区から来ました。アマンダの知り合いです」


 僕がアマンダの名を口にすると、機人女性は「へえ、アマンダの」と言って大きな瞳を一層大きく見開いた。


「アマンダにこんな可愛いボーイフレンドがいたとなると、エレファントの旦那もうかうかしてられないね」


「黒崎さんにもお世話になってます。マシンファイトに出た時、色々教えてもらいました」


「こりゃあ驚いた、あんたマシンファイターだったのかい。それじゃあスタミナのつくものを出さないとね。あたしはアマンダの友達のクロエ。アマンダは今、外にお遣いに行ってるから、飲み物でも飲んで待ってるといいよ。――おいで坊や。奥のテーブルを空けてあげる」


 クロエはそう言うと、僕をカウンター近くのテーブル席へと案内した。

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