第76話 荒野の風に吹かれる機人たち 8
「ようし、荷物はこれで良し、と。思った以上にいい品が手に入ったな」
ホテルの前で、車に購入した物を積みながら黒崎が言った。
「あれ?徹也はどうしたんだい」
従業員に礼を述べてホテルの外に出たアマンダが、僕に尋ねた。
「あ、ええと……花屋の友達にお別れを言いに行ってるんじゃないかな」
「ははあ、そういうこと。だったら野暮は言わず、好きにさせてあげたらいいよ」
僕は頷き、黒崎の積み込みを手伝った。やがて出発の準備が整い、黒崎が車のアイドリングを始めた。まずいな、そろそろ呼びに行かなくちゃと僕が思いかけた、その時だった。
「遅れてごめん基樹、ちょっと話があるんだけど、いいか?」
息を切らせて姿を現したのは、徹也だった。
「ああ、いいよ。なんだい?」
「……実は、今度のミッションが終わったら、俺は『ハートブレイクシティ』には行かずにここで暮らそうと思うんだ」
「えっ……」
僕は言葉を失った。それは心のどこかで予感していた言葉でもあった。
「それは……お前がそうしたいって言うんなら僕がどうこういう事じゃないけど、本当にいいのか?ここは一日数時間、ほんの少しの人たちだけが生きられる街なんだぜ?」
「うん、構わない。よく考えてそうしたいって決めたんだ」
「……ナナと一緒にいたいんだな?だったら今度のミッションには参加しないでこのまま残ったらいいよ。そもそもは『ハートブレイクシティ』で暮らす後ろ盾を貰うためのミッションなんだし、行かないとなったら協力する必要もないだろ?無理することないよ」
僕が言うと、途端に徹也の表情が暗くなった。
「寂しい事言わないでくれ、基紀。俺はただここで暮らしたいだけなんだ。お前や拓さんが無事に『ハートブレイクシティ』にたどり着くことを願ってるのに変わりはない。予定通り俺にも参加させてくれよ」
僕は沈黙した。徹也の気持ちはよくわかる。しかし大事な人がいるのなら、やはり参加しない方がいい。周到に準備されたお芝居とはいえ、どんな予想外の危険が待っているかわからないのだ。
「危険があることはわかってる。でも俺にとって、これがみんなの役に立つ最後のチャンスなんだ。安心してここに戻ってくるためにも、ぜひ手伝わせてくれ」
「……わかった。ナナにはもうお別れを言ってきたんだな?じゃあ車に乗れよ。行こう」
僕がぶっきら棒に言うと、徹也は満面の笑みを浮かべて「ありがとう、基紀」と言った。
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