第63話 荒海へと漕ぎ出す機人たち 18
僕は焦げていない床を選んでダナを置くと、カルロを探し始めた。やがて、厨房に近い一角に、弱々しく明滅する光が見えた。近寄ってみると光っているのはダナと同様、黒焦げになった小さなユニットだった。
「うう……誰だ」
機械に触れると懐かしい声が聞こえ、僕は胸が締め付けられるのを覚えた。
「カルロ……カルロなんだな?」
「君は……ああ思いだした。基紀君……だな。なにがあった?目が良く見えない……僕は、僕の身体はどうだ?」
僕は言葉に詰まった。こんな……こんなひどい話があってたまるか。
「……なんでもない、君は無事だカルロ。傷ひとつないよ」
僕は焼け焦げた塊になったカルロにそう語りかけた。
「そうか、それを聞いて安心した。ダナは……ダナはどうした?ここにいるのか?」
「ダナは別の場所にいるよ。大丈夫、攻撃を受けた時はここにはいなかった。無事だよ」
「よかった。もし近くにいるのなら、僕をダナのところに連れて行ってくれないか。身体が……うまく動かせないんだ」
「わかったよカルロ、ダナのところへ行こう」
僕はカルロを手に乗せてダナの元に運ぶと隣に並ぶように、すぐ近くの床に置いた。
「カルロ……カルロなのね?」
「ああダナ……よかった、無事だったんだな。でも君が……君が見えないんだ。どこにいる?ダナ」
「ここよカルロ。私にもあなたが見えないの。……でも近くにいるのね?わかるわ」
「基紀君、教えてくれないか。……ダナは綺麗かい?」
「ああ、綺麗だよカルロ。いつも通りだ。何も変わらない」
「よかった。本当に良かった……」
「ねえカルロ、お店が元通りになったら、ここを離れましょう。いつか約束してくれたように、町はずれで小さなお店を持つの。そして……」
「君を平凡な……田舎のレストランが似合う優しい顔にしてあげたい。そしてマザーファクトリーに頼んで子供の機人をもらうんだ」
「嬉しい……カルロ、愛してるわ。もっとそばに来て」
「ああダナ、君の顔が見たい……どこにいるんだ、ダナ」
僕の前で二つの光は、どんどん弱くなっていった。やがて最後の力を振り絞るように二、三度瞬くと、力尽きたように二つ同時に消えた。
「ダナ……カルロ!」
僕は二人の友人を拾いあげると、建物の外に出た。往来では事態を察したのか、苦悶に満ちた表情のショウが僕を出迎えた。
「やつらなんてことを……畜生、こんなことが許されていいのか」
「ショウ、僕は今までいくら蔑まされても暴力を振るわれても、人間のことを憎むまいと思って生きてきた。……でも、僕は今、奴らを……人間たちを憎む!」
僕が涙をこらえて叫んだ、その時だった。立ち去り始めた野次馬に逆らうように、ひとつの影が僕らの前に姿を現した。
「へへっ、また会ったな機人。この日が来るのを待ってたぜ。今度こそ貴様をスクラップにしてやる」
身体のあちこちから人工部品を露出させた異形の人物――鬼藤はそう言うと、僕を獲物を見る目で見た。
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