第62話 荒海へと漕ぎ出す機人たち 17
「そうか、ミス・ブランシェの弟か……とんだ遺恨を残しちまったな。俺の責任だ」
自転車でカルロの店に行こうとする僕を、「俺が送っていこう」と呼び止めたのはショウだった。
「そんな、ショウは関係ないよ」
「いや、関係はある。俺がお前たちを八百長試合に引きこんだんだ。あれがなければお前の知り合いがとばっちりを食うこともなかったはずだ」
「ショウ、止めてくれないか。僕はもう誰のことも恨むまいと決めたんだ」
「そうか……」
ショウの車がレストランのある街区に差し掛かると、突然、焦げ臭い臭いが鼻をついた。
「なんだ?この臭いは」
「……くそっ、間に合わなかったか」
車が角を曲がり、通りの向こうが見えた瞬間、僕は心臓が止まりそうになった。
「――カルロの店が!」
人だかりが遠巻きに見つめる中、入り口から黒い煙を上げているのは紛れもなくカルロのレストランだった。
「ショウ、車を止めてくれ。行かなくちゃ」
「落ち着け基紀、ちゃんと状況を見極めてから……」
ショウの制止を振り切って車を飛びだした僕は、野次馬の群れをかいくぐってまだ煙の出ている入り口に飛び込んだ。
「カルロ、ダナ、どこだ?」
いがらっぽい臭いの立ち込めるフロアで、僕は煙に目をやられながら二人の名を叫んだ。
店内はどこもかしこも黒焦げで、爆弾の類が使われたのは明白だった。やがて、折り重なった椅子とテーブルのはざまで何かが明滅し、僕は咳き込みながら光の方に駆け寄った。
「なんだろう……」
弱々しく点滅する光を頼りに瓦礫を掻き分けると、焼け跡から手の平ほどの機械が姿を現した。
「ああ……誰?そこにいるのは」
機械を拾いあげると、聞き覚えのある声が僕の耳に飛びこんできた。
「ダナ……まさか君か?」
「その声は……基樹君ね?……なにがあったの?」
僕は愕然とした。ダナの美しいボディは跡形もなく吹き飛び、この小さなユニットだけが辛うじて残されたのだ。
「カルロの店が、誰に攻撃されたんだ。……でも大丈夫、大したことないよ」
「そうだったの……ねえ基樹君、身体が……身体が動かないの。どうしたのかな、私」
「多分、近くで爆発があって、それで回路がショートしたんだ。心配ないよ」
「でもどういうわけか基紀君、あなたの姿が見えないの。目の神経もやられたのかな」
「うん、ショックで一時的に見えなくなってるんだよ。すぐ元に戻るよ」
「そう……ねえ基樹君、カルロは?カルロは近くにいる?無事を確かめたいの」
ダナに問いかけられた瞬間、僕は返答に窮した。
「見える範囲にはいないけど、多分その辺に入ると思う。探して連れてくるから、ここで待ってて」
「……わかったわ。ありがとう基樹君」
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