第61話 荒海へと漕ぎ出す機人たち 16


 僕がショウによって明かされた真実に打ちのめされていると、ケンが「なあ少年」と肩を叩いた。


「これからお前が出会う者たちは、必ずしも機人に好意的とは限らない。時にはやむに已まれず戦うこともあるだろう。だが、傷つけることを恐れては生きてゆけん。わかるか?」


 僕は無言で頷いた。『機喰虫』を撃った時、僕は自分の衝動を止めることができなかった。鬼藤に襲われた時も、瑠佳さんが来てくれなければ多分、撃って殺していたに違いない。


「旅を続ければいずれは身体を機械化しておらんただの『人間』を撃つこともあるだろう。だが少年、気に病むことはない。生き物には時として、悪とわかっている行為を飲み下さねばならぬ時もある。そいつの人生にとって必要な行為ならそれは正しいことなのだ」


 僕は再び頷いた。おそらくケンのいう事が正しい。誰も傷つけずに済む人生などないのだから。


「基紀、こいつはお前にくれてやる。荒野で生きることを決めたのなら、そいつが必要になる時がきっと来る。たとえやむをえず誰かを傷つけたとしても、それが定めなのであれば後ろめたく思う必要はない。大切なことは常に己にいい聞かせることだ。自分は生きる価値のある存在だと。……いいな?」


 ショウはそう言うと、僕に愛用のマグナムを握らせた。ずっしりと重く冷たい感触は、それが人や機人を殺すための武器であることを嫌でも僕に悟らせた。


「ここから先はお前の人生だ、基紀。俺やスティンガーは助けてやれない。だが愛する能力があるなら、戦う抜く力もあるはずだ。生きて『ハートブレイクシティ』にたどり着け」


「わかった、約束するよ」


 僕が頷いてマグナムを握りしめた、その時だった。ふい僕の端末が鳴り、心臓が小さく跳ねた。なんだろう、胸騒ぎを覚えた瞬間、聞き覚えのある声がスピーカーから飛びだしてきた。


「やあ基紀、久しぶりだな」


 声の主は生島だった。僕は不快感をこらえて「何か用ですか」と短く応じた。


「ああ、別に用ってほどじゃない。今回のファイトで凰児さんがずいぶんと恥をかいたらしく、うちの姉に愚痴っていたんでいいことを教えてやったのさ」


「いいこと?」


「人間の街でお前と車に乗ってた女――ダナとか言ったな。そいつが働いてる店を教えてやったんだ。そしたら顔なじみのギャングに頼んで店の風通しを良くしてやるとさ。悪く思うなよ基紀。女に恨みはないが、もとはと言えばお前とお仲間の連中が悪いんだぜ」


 僕は絶句した。……ダナの店だって?


「卑怯だぞ、なぜ僕を狙わない!」


「お前を狙ったところで凰児さんには何の得もないからな。どうすればお前が一番苦しむか、考えたらこうなったのさ」


「教えろ、いったいダナとカルロの店に何をした!」


「自分で行って確かめてみるんだな。あばよ基紀。機人のくせに調子に乗るからこういう目に遭うんだぜ」


 通話が切れた瞬間、僕は『変身屋』を飛びだしていた。そんな馬鹿な、僕が関わったばっかりにダナ達にまで危害が及ぶなんて!


 それとも――生島が言う通り、僕はスクラップになっていた方がいい機人だったのか?

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