第60話 荒海へと漕ぎ出す機人たち 15


「どうしてあの場所がわかったんです?」


 ジャンと別れ、『変身屋』に戻った僕はケンに尋ねた。


「ショウに貼りつけた『偽のコントローラー』だよ。ずっとショウの位置を発信し続けていたし、異変があった事にも気づいていた。動く車を見繕っているうちに遅くなったがな」


 ケンはそう言うと、ショウから取り外したコントローラーを机の上に放った。


「でもあの怪我からこんな短時間で、よくここまで動けるようになりましたね」


「看護の腕が良くてな。……拓、お前さんの彼女は大したもんだ」


 ケンがからかうように言うと、拓さんは当然といった表情で鼻を鳴らした。


「ごめんなさい、私が油断したばかりにみんなを危険に巻きこんで……」


 麻里亜が目を伏せて詫びると、ショウが「相手が相手だ、仕方ないさ」と言った。


「ショウ、これだけは教えてくれないか。『機生界』に拉致されたってことは、ショウも『イグニアス』と関係があるんだろう?」


 僕が尋ねると、ショウは「その答えはイエスであると同時にノーでもあるな」と答えた。


「どういうこと?」


「お前や他のイグニアスを作った連中と、俺を作った連中が同じかと問われれば、多分イエスだ。だが、俺の中にある『タナティックエンジン』は出来の悪い試作品だ。『タナティックエンジン』と対をなす『エロティックリアクター』も然りだ。両方のシステムが作動しなければ『装心機人』とは言えない」


「なんですか、その『装心機人』って」


「人の心――愛し、恐怖し、悲しむ能力を持った機械のことさ。攻撃衝動を発動させるためには同じだけの愛を持つ必要がある。俺にはどちらも欠けているんだ。だから人を殺める機械――『イグニアス』のナンバーから外された。俺は俺を作った奴らの元から脱走し、その後、俺を元に作られたのがプロトタイプの『ナンバー1』だ」


 僕は絶句し、ショウの見慣れた顔をあらためて見返した。この人が、まさか『イグニアス』の原型だとは。


「他のナンバーは今、どこにいるんですか」


「人間の街にいるのは『ナンバー2』だけだろう。『ナンバー1』は研究者の一人と共に研究施設を脱走して『ハートブレイクシティ』の元を築いたという話だ」


「麻利亜、『ナンバー2』ってのは確か君の兄さん……」


「……を元に作られた機人ね。私も会ったことはないわ。ただし、私の双子の妹――つまり私を元に作られた『ナンバー3』はどうやら『ハートブレイクシティ』にいるらしいわ」


「僕と同じように兄弟たちも『ハンター』や『機生界』に狙われているんでしょうか」


「さっきも言ったように俺とプロトタイプのシステムは不完全だ。そしてナンバー3、4には二つのシステムのうち、どちらかに欠損がある。両方が完全に機能するのはおそらくナンバー2とお前だけだ」


「僕と麻利亜の兄さんだけ……」


「基紀、たしかに最初から組みこまれた機能は変えられない。でも、だからこそかなえられる夢だってある」


「気休めはよしてください。人殺しの能力にどんな夢があるっていうんですか」


「お前の能力は誰かを愛する能力と対になっている。誰かを傷つけたらその分、誰かを愛してやればいい」


「愛する能力……」


 ショウの言葉を聞いて僕が真っ先に思い浮かべたのは、ジュナの顔だった。それが本当なら僕は機人だけじゃなく、人間も愛することができるのだろうか。


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