第33話 寄る辺なくさまよう機人たち 26
「どうやら判決が下ったみたいね、哀れな機人さん」
「麻利亜さん……」
「でもあなたがしたことを考えたら、悪いけど同情の余地はないわ。……ただし」
麻里亜は僕の前で足を止めると、あたりを窺うように小声で「あなたを襲ったっていう強化人間の話には興味があるわ」と言った。
「あいつが帰って雇い主になんて報告するのか、気になるよ。僕はこれからもあんな奴らに狙われ続けるんだろうな」
「そうね、強化人間を失神させた以上は当然だわ。……でもいつの間にそこまで強くなったの?基紀君」
「それは……」
僕は言葉を切り、宙を睨んだ。悩んでいても仕方がない。聞いてもらうには麻利亜はうってつけの人間だ。
「麻利亜……『イグニアス』って、聞いたことある?」
「――イグニアスですって?」
「何か知ってるの?」
「信じられない……あなた『兄』と同型の機人なの?」
「え?……麻里亜さん、人間だろう?お兄さんが機人のわけないじゃないか」
「……いいわ、話してあげる。実は私の兄は数年前、事故で亡くなったの。イグニアスっていうのは父が兄に似せてこしらえた特殊な機人……人間とほぼ同じ心を持った機人よ」
「人間と同じ……?」
「しかも父は、私も失ってしまうのではないかという恐怖から、まだ生きているのにわたしそっくりの機人までこしらえてしまったの。だから機人である兄にとって、妹は私じゃなく機人の方の麻利亜ってわけ」
「じゃあ、『イグニアス』型の機人が僕のほかに二人いるってこと?」
「もしあなたの話が本当なら、バックアッププログラムが告げた0005っていう数字は多分、製造ロットのはず」
「五体も……」
「私が知っている限り兄の前にプロトタイプが一体、造られているから、最低でも兄と私、合計三体の『イグニアス』がいるはず。もしあなたも同型の機人なら、残りはあと一体ってことになるわね」
「つまりまだどこかに、僕の知らないナンバー4がいるってこと?」
僕が問いかけると麻利亜は眉を寄せ「あなたまさか探しに行くつもり?」と気色ばんだ。
「ショウが言ったこと忘れたの?ファイトまでの三日間、あなたは謹慎中の身なのよ」
「ごめん。……ファイトが終わるまで、おとなしくしてるよ」
僕が訝しげに目を細めた麻利亜を前に俯いた、その時だった。ふいに僕の端末が鳴った。
「基紀です。……アマンダさん?」
電話をかけてきたのは、アマンダだった。
「はい、すみません。無事です。それよりダナは……ダナは無事に戻れたんですか?」
「安心して。ダナは無事よ」
「よかった……勝手にコンテナから逃げたりしてすみません。ファイトが終わったら必ず謝りに行きますとダナに伝えて下さい」
僕がアマンダとの通話を終えると、腕組みをして聞いていた麻利亜がふうと息を吐いた。
「基紀君、あなたいったい何人の機人と人間に迷惑をかけたら気が済むの?」
「……やっぱり僕は工場で叱られてるか、スクラップになるべき機人だったんじゃないか」
「なに言ってるの。これだけたくさんの人たちがあなたのために骨を折ってくれるってことは、あなたの力になりたいからじゃない。今、あなたがすべきことは卑屈になることじゃなく、お世話になった人たちに感謝することよ。違う?」
「……麻利亜、君の言う通りだ。三日間、トレーニングに励んで最高のファイトをするよ」
僕がそう言っておそるおそる顔を上げると、麻里亜が「よし、合格」と笑みを見せた。
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