第27話 寄る辺なくさまよう機人たち 20


「あの子のことを知っていそうな人がいる?」


 アマンダからもたらされた情報に、僕は思わず大声を出しそうになった。


「ああ。あたしの従弟がやってるレストランの二階が、旅行者用のホテルになっててね。ボランティアグループの定宿になってるそうなんだ」


「どこのお店です?」


 僕が興奮して尋ねると、アマンダは「教えたらあんたはすぐ行こうとするだろ?」とぴしゃりと釘を刺した。


「ちゃんとあんたのボスに承諾を貰ってから行くって、約束ができるかい?」


 僕は一瞬、返答に詰まったあと「はい、ちゃんとショウに了解して貰ってから行きます」と言った。


「来られそうになったらまず、あたしの店に来な。変装を手伝ってあげるよ」


 僕はっとした。僕はもう、僕とわかるなりをして外に出てはいけない立場なのだ。


「ありがとうございます。お願いします」


「じゃあ、来る前にまた連絡をよこしな。……正直、あたしはお薦めしないけどね」


 僕は送話口を手で押さえながら何度も「ありがとうございます」と小声で繰り返した。


                 ※


「よくあんたのボスが送りだしてくれたねえ」


 僕はアマンダの顔をまともに見ることができず、目を逸らした。どうしても『天使』のことを知りたかった僕は、ショウが外出したタイミングを見計らってアジトを飛びだして来たのだった。


「従弟の店まであたしもついていってやるから、ここでしっかり変装をしていっておくれ」


 三十分後、アマンダは配達員の、僕は赤毛のかつらにぶかぶかの作業着という格好で目的の店に向かった。どうやらのろまな配達助手というのが僕の役柄らしかった。


 幸い、僕らはハンターに目をつけられることなくアマンダの従弟がやっているというイタリアン・レストランに到着した。


「やあアマンダ、どうしたんだいそのなりは。仕事を変えたのかい」


 浅黒い顔をした精悍な男性は、僕らを見るなり表情を和らげた。


「あいにくとこの格好は今日だけさ。それより今日は、あんたに聞きたいことがあってね」


「なんだいあらたまって。……そっちの子は放っといていいのかい」


「それなんだけどね。この子が人間のボランティアグループで歌を歌っている女の子のことを知りたがってるんだ。あんた、何か知ってることはないかい?」


 アマンダが僕の方をちらりと見て言うと、従弟の男性は「ははあ、なるほど」と頷いた。


「俺も詳しくは知らないよ。いつも一日かせいぜい、二日くらいしかいないからね。確かリーダーがオーギュストとかいう男で、女の子はそう……ジュナとか言ったかな」


「ジュナ……」


「ねえカルロ、この子がそのジュナって子に世話になったらしくてね。礼を言いたいってことなんだけど、知恵を貸してくれないかい」


「お安い御用さ。うちのダナが週に一回、ミドルタウンに行商に行ってるから、その時にメッセージも運んでもらえばいい」


「本当ですか?」


「ただし、頼みを聞いてやるからにはメニューの上の方の品をオーダーしてもらわなくちゃ、困るけどな」


「相変わらずあこぎだね。……いいよ、今日は特別にこの子の分もあたしが奢ってやるよ」


「太っ腹だな、アマンダ。どうやらその坊やに相当、入れ込んでるようだな」


「くだらない事言うんじゃないよ。まずはビールを持って来な」


「おいおい、仕事中だろう?」


 カルロが大げさに肩をすくめてみせると、アマンダが「硬い事言うんじゃないよ。あんたいつからそんないい子になったんだい」と鼻を鳴らした。


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