第28話 寄る辺なくさまよう機人たち 21
カルロが紹介してくれた恋人のダナは、目を瞠るような美人だった。
「あの、ええと……お綺麗ですね」
僕が普段は言わないような褒め言葉を口にすると、ダナは「ありがとう。でもメイクも何もしてないのよ」と困ったような目をしていった。
「それでそんなに綺麗なんですか」
「私は人間がショーをする時のモデルとして造られたの。だから生まれつきこの顔。いつも強いライトの下に立って微笑まなくちゃいけない。どんなに普通の顔にして欲しいっていっても、「お前の仕事は見られることだ」って言われておしまいよ」
「そういう機人もいるんですね……僕は何も知らなかった」
「モデルをしていた時は、色々な野次も飛ばされたわ。でも私は泣いたりしなかった。なぜかというと、私には嫌なことを言われると感情をシャットアウトする機能がついているから。泣きたくても泣けないの。仕事中に表情を変えられたら困るっていう理由でね」
ダナはそう言うと、口許に寂し気な笑みを浮かべた。
「でもカルロに会って変わったわ。カルロとアマンダは同型の機人で、元々は人間の映像会社でCM用に造られた人たちなの。でも人間の元を逃げだしてダウンタウンに身を潜めてからは自分が望む生き方を探すようになった」
「僕は、人間に与えられた仕事以外の道を選ぶことは、不可能だと思っていました」
「カルロは調理用の機人じゃないのに必死で調理を覚えた苦労人。私と会った時、彼はこう言ったわ。いつか町はずれで小さな店を持ちたい。そしてためた金で君の顔を造り変えてあげたい。平凡な夫婦としてつましく生きたいんだって」
「機人にそんなことができるなんて……」
「だから私も、人間の街に行商に行ってカルロの手助けをしているの。時々、昔の知り合いに会っちゃうこともあるけど、みんな今の私の方が素敵だって言ってくれるわ」
ダナの輝くような表情を見て、僕は思った。機人だろうが人間だろうが、自分を生かしてくれる存在を見つけてその人のために生きるってことは、きっと素晴らしいことなんだ。
「ダナ、僕には大切な人がいるんだ。その人に会って、僕も新しい世界を知った。ただ……彼女はあなたたちの場合と違って、人間の女の子なんだ」
「そう……それは大変ね。機人と人間が堂々と触れ合える社会ならいいんだけど……」
「ダナ、あなたにメッセージを託すんじゃなくて、僕も人間の街に行ったらダメかな?」
「なんですって?」
僕の頼みにダナは思った通り眉を顰めたが、僕は構わず畳みかけた。
「できるだけ迷惑はかけないようにする。車の窓から彼女を見るだけでいいんだ」
「そんなこと言われても……人間の街でビジネスを営む機人は少ないわ。いつもの行商人に混じって見慣れない機人がいたら、勘の鋭い人間には気づかれるかもしれない」
ダナがあからさまに渋る様子を見せ始めた、その時だった。
「荷物になって行けよ、坊や」
バックヤードに姿を現したのは、休憩に入ったらしいカルロだった。
「荷物に?」
「――ちょっとカルロ、人間を荷物に偽装したりしたら、積み下ろしが大変よ」
「玄関の前まで、その子に出て来てもらえばいいのさ。コンテナのリアハッチを開けて中と外で顔を合わせればいい。ロミオとジュリエット方式さ」
「……まったく、ろくでもない思いつきだけはピカイチなんだから困るわ」
ダナは大げさに両肩をすくめると、僕に「いい?顔を出していいのは半分だけ、あと乗り心地に関しては文句を言わないこと」と言った。
「うん、わかった。ありがとう、ダナ。無理を言ってごめんよ」
「本当にわかってるの?言っておくけど、キューピッド代は高くつくわよ」
「もし彼女に会えたら、僕にできる礼はなんでもするよ」
「なんでもって……あなた逃亡中なんでしょう?もう、男の子ってわがままなんだから」
呆れたように天を仰ぐダナに詫びながら、僕は心の中でやった、会えるぞと叫んでいた。
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