第17話 寄る辺なくさまよう機人たち 10


「紹介しよう。『機人玩具店』の主人ことケン・ムートだ」


 ショウがそう言って僕らに引き合わせたのは、全体が錆びついた商店街の奥で工房を営む中年の機人だった。


「厄介事ばかり抱え込みおって。……とにかく頼まれた試作品はできとるぞ、ショウ」


 口ひげを生やした機人――ケンはそう言うと、ピンク色の肉塊に機械の部品をでたらめに埋めこんだような物体を取り出した。


「この一番上の薄い皮が人工皮膚だ。傷つけばちゃんと血も出る。――ただし人工血液だがな」


 ケンはそう言うと、ベルトにつけられたスイッチボックスに手を伸ばした。


「ここのスイッチを押すと、コンプレッサーが『肉』に空気を送り込む。……こんな風に」


 ケンがスイッチを入れると物体の筋肉に当たる部分が膨らみ始め、埋め込まれた機械が耐えかねたようにはじけ飛んだ。


「この三層構造のギミックをお前さんの身体に貼り付けるというわけだ」


「機人の俺が強化された人間を演じるのか。やれやれ、人間のふりをするのも一苦労だな」


 ぼやきを口にするショウにケンは「せいぜい名演技を披露するんだな」といなした。


「さて、こいつは『マッスルショルダー』だ。お前さん……ええと」


「徹也だ」


「お前の肩にこいつを取りつける。興奮しモーターの回転数が上がると肩の肉が盛り上がり、人間のように静脈が浮き出る」


「俺がこいつをつけて、人間になりすますのか。……正直、あんまり自信はないな」


 徹也がうんざりしたように漏らすと、ショウが「不満か?」と声を低めて言った。


「尻込みする気持ちはわかるが、今さら後へは引けないぜ。お前はただ人間のふりをするだけじゃなく、『強化人間』のふりをしなくちゃならないんだ」


「人間の芝居をさせられたかと思ったら、あっという間にノックアウトか。最悪のキャスティングだぜ」


「まあそう言うな。その分、出番は短くて済む。せいぜい二、三分ってとこだ」


「僕は?」


 おそるおそる問いを放った僕に、ショウは「残念ながら、一番難しい役だ」と言った。


「お前の役はお前の性格が元になっている。だから芝居はいらない。その代わり、ケンカファイトを学ぶ必要がある」


 僕は思いきり肩をそびやかした。なんてことだ。よりによって一番苦手なケンカのトレーニングをさせられる羽目になるとは。


「ショウ、俺はあんたと戦う役なんだろう?しっかり打ち合わせをしておかないとな」


 拓さんが挑発めいた口調で言うと、ショウは「大丈夫、、俺の台本は完璧だ」と返した。


「お前は生まれ変わった俺を相手にフェアなファイトを見せ、機人たちの喝采の中でダウンするんだ。時間も短いしある意味、今回の興行で最もおいしい役どころといってもいい」


 ショウが宥めると、拓さんは「話がうますぎるぜ、旦那」と訝しむように鼻を鳴らした。


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