第15話 寄る辺なくさまよう機人たち 8


朱雀凰児すざくおうじ?」


「クリシュナコーポレーション会長、朱雀源次郎の息子さ。そいつを騙す」


「騙すって、どういうことですか?」


「この息子は放蕩が過ぎて父親に半勘当を言い渡されてね、機人から騙し取った金で遊んでいる穀潰しさ。人間に放逐された機人が路銀を得るカモとして、これ以上の奴はいない」


「どうやって金を掠め取る?」


 拓さんが問うと、ショウはにやりと笑って煙を吐き出した。


「八百長試合を利用するのさ」


「八百長試合?」


「人間社会の一部で非公式に行われている娯楽に『マシンファイト』という物がある。これは人間と機人を戦わせて、入場料を取って観客に見せるというものだ。当然、機人が有利と思うだろうがこれがそうでもない。壊れかけた機人と強化人間を戦わせて人間が機人を叩き壊す、というのが定番だ」


「見て喜んでいるのは人間、ということですか」


「当初はそうだった。機人を恐れる人間たちが不安を払拭し、爽快感を覚えるという目的で催されていたようだが、最近、雲行きが変わってきた。賭けのせいだ」


「賭け……」


「ファイトの裏で、凰児が闇社会の人間を相手に賭けを始めたんだ。凰児は懇意にしているマフィアを儲けさせるため、八百長試合を仕組んだ。まず興行を仕切っている連中に圧力をかけて一般機人にも入場を許可し、観戦できるようにする。そして何試合かに一度、ギリギリのところで機人に軍配が上がる試合を演出するんだ」


「なんのために?」


「機人を熱狂させ、賭けを盛り上げるためさ。下馬評では常に人間が有利となっており、どの試合で機人が勝つかはわからない。だが人間側のファイターが凰児に金で雇われていれば、簡単に負け試合を演出できる」


「わざと機人を勝たせることに意味があるんですか?」


「あるとも。ファイトは常に、裕福な強化人間と貧しい機人のチャレンジャーという構図にしておく。事前に流したファイターのドラマに、観客の機人たちは負けることを覚悟の上で熱狂する。一方、懇意にしているマフィアには機人勝利の情報を流しておく。賭けに参加する人間は大半が人間勝利と思っているから、マフィアは大穴を当てて凰児はマフィアに貸しを作れるというわけだ」


「負けた連中は面白くないでしょうね」


「だから大半のファイトでは人間側が勝つのさ。機人たちは今度こそ機人が勝つと信じてやって来るから興行主は入場料でがっぽりと儲かる。そういう時はマフィアも機人には賭けない。結局、入場料の一部が凰児を通して雇ったファイターへ流れ、賭けに負けた不運な連中の金がマフィアへと渡る。儲かるのは興行主と凰児、そしてマフィアというわけだ」


「機人たちは気がつかないんでしょうか」


「ほぼ毎回、人間が勝っても立場が弱い機人たちは騒がない。そして実際に何試合かに一度はドラマチックに機人が勝つから、稼ぎのほとんどを吸い上げられても気にしないのさ」


「弱い物の心理を利用してなけなしの金を分捕るなんて許せないよ。やっぱり人間はとことんまで腐ってるんだ」


「そこまで言うのは人間に失礼だ。あくまでも八百長試合で儲けているのは一部の人間さ」

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