第14話 寄る辺なくさまよう機人たち 7
「――だから人間が「この機械が」とか「スクラップにしてやる」といった言葉を口にする時は大抵、恐怖を感じているのです。あなたたち一人一人の性格がどれほど優しく穏やかであっても、この畏れは消えません。いたずらに刺激せず、暴言を吐かれてもぐっと呑みこむことが共存の第一歩なのです」
礼拝堂を思わせる部屋で麻利亜が語りかけているのは、粗末な身なりをした機人の少年たちだった。どうやら麻利亜はここでスラムの子供たちに人間との付き合い方を教えているらしい。
「じゃあ、危害を加えられそうになったら、どうすればいいんですか?」
そう叫んで手を上げたのは、十二、三歳くらいの子供型機人だった。
「そうね、言葉でわかり合える相手じゃないと思ったら逃げるのが一番だわ。言いなりになって壊されてもいいことはないし、それは人間にとっても不幸なことだから」
「……僕、妹が人間にさらわれそうになったことがあるんです」
「そうだったの。そんな時は、全力で守ってあげて。もし必要なら、棒きれや石で応戦しても構わないわ。ただ、怒りに身を任せちゃだめ。暴力は何も生まないわ」
「――わかりました」
少年型の機人が頷くと、麻利亜は「さあ、今日のお話はこの辺で終わりにしましょう」と言った。
子供たちが去った部屋で片づけを始めた麻利亜は、僕に気づくと「話を聞きに来たの?だったらちゃんと席について」と言った。
「ごめん……立ち聞きするつもりじゃなかったんだ」
「あの子たちはね、暴動の時に家族と切り離されて目的を見失った機人なの」
「人間との付き合い方なんか教えて、どうするつもり?」
「いずれは双方が歩み寄る時代が来る。その時にあの子たちが水先案内役になって、人と機人との懸け橋になってくれればいいと思ってるの」
「理想は結構だけど、僕が見てきた世界にそんな明るい空気は少しもなかったよ」
「だからなに?いじけて暗い現実ばかり見て、なんの意味があるの?機人だって生まれてきた以上、自分の道を切り開く権利があるわ。たとえ奉仕の目的で造られたとしてもね」
「僕らは人間には逆らえないし、人間も僕らを対等な存在と認めることはできない。そういう風に最初からできてるんだ」
「かもしれない。だったら自分で自分を作り変えればいい。少なくとも私は人間と機人、両方が変われる未来があると信じてるわ」
「それは君が人間だからだ。僕ら機人はそう言う未来を信じられるようにはできていない」
「……少なくとも、ここに来ている子供たちは未来を信じてるわ。ショウだってそうよ。でなければ人間である私に話をする場を提供するはずがない」
「あいつは何だ?君は人間のくせに機人を崇拝するのか?本当は心の底で見下してるんじゃないのか?」
「馬鹿な事言わないで。あなたはまだ、外の世界のことを何も知らないんだわ」
「そうさ。僕は馬鹿だし工場で働く以外、何一つできないグズの機人さ。君みたいに他人に話して聞かせる知識はひとつもない。君の言うような未来は僕には絵物語なんだ」
「……可哀想な人ね。でもショウに任せておけば、きっといい方向に道が開けると思うわ」
「残念ながら僕はまだ、そこまであの人の事を信用できない」
「それはあなた次第よ。まだ考える時間はあるわ」
麻利亜はそういい残すと、本の束を手に僕の前から去っていった。僕は言いようのない虚しさを噛みしめながら、床にこぼれた外の陽射しを見つめた。
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