第12話 寄る辺なくさまよう機人たち 5
「怪しいな。立ち入り禁止区域に何の用だ」
「飯を食える店を探してたら、いつの間にか迷いこんじまってたんです」
拓さんはホールドアップの姿勢を取ったまま、背後にいる謎の人物に答えた。
「嘘を言うな。うっかり迷ったくらいで入り込める場所ではない。お前たち、こんな奥まで来ても平気だということは、人間ではないな?」
「はあ、ご明察で。三名とも、工場で働く機人仲間です。阿修羅先生って名医の紹介で、力になってくれるショウって通り名の機人さんを探してるんです」
「ショウだと……?」
僕は前に立っている拓さんの背を見ながら、二人の緊迫した会話に聞き入っていた。
「どうもこのあたりに住んでるらしいんですが、何せ手がかりがなくてね……この辺りに詳しいんなら、いそうな場所を教えてくれませんかね」
「……おっと、誰が手を下ろしていいと言った?」
「ああ、すんません、ちょっと腕がだるくなったもんで」
拓さんが降ろしかけた手を再びゆっくりと上げかけた、その時だった。脇のハッチが開いて中からボール状の物体が転がり落ちた。
「なんだ?」
背後の人物が問いを発した、その時だった。ぱちんという音が聞こえたかと思うと、あたりが白い光に包まれた。
「――うわっ」
「散れっ!」
拓さんが指示を飛ばし、僕らはやみくもに駆けだした。数秒後、僕が目にしたのは拾いあげた武器を黒い防護スーツの人物につきつけている拓さんの姿だった。
「ヘルメットを脱いで顔を見せな。数秒くらいならあんたが人間でも死ぬことはない」
拓さんが命じると、人物はゆっくりとフルフェイスのヘルメットを外した。ヘルメットの下から現れた顔に、僕は思わずはっとなった。武器をつきつけられても眉一つ動かさないその人物は、長い髪をなびかせた美しい少女だった。
「あんた……」
拓さんが絶句した直後、少女の手からヘルメットが落ちて転がった。すると次の瞬間、ヘルメットの内側からガスのような物が噴き出してあたりに広がった。
「……うっ?」
僕らは同時にうめき声を上げると、次々とその場に崩れていった。ガスを嗅いだ瞬間、体内の電圧が急激に下がったのだ。
「このガスには、毒の大気を機人用の催眠ガスに変化させる成分が含まれているの」
少女は口許をスカーフで素早く覆うと、落ち着き払った口調で言った。
「――くそっ、油断したぜ」
拓さんの呻きと歯ぎしりが聞こえ、同時に僕はモーターの回転数がみるみる落ちてゆくのを感じた。やがて手足の自由が利かなくなり、目の前が真っ暗な闇に閉ざされていった。
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