第10話 寄る辺なくさまよう機人たち 3
「徹也、ごめんよ。僕のせいで君までお尋ね者にしてしまった」
病院から出て立ち入り禁止区域を歩きながら、僕は徹也に今回のことを詫びた。
「気にするなって。前からあの指導員の嫌味は腹に据えかねていたんだ。ちょうどいい辞め時だよ。……ところで拓さん、先生が言っていた味方になってくれる人ってのは、このあたりにいるんですか?」
「ああ、すぐ近くだと言ってたな。つまり、この立ち入り禁止区域の中にいるってことだ」
拓さんはそう言うと足を止め、ゴーストタウン化した市街を見回した。目に見える範囲に人の住んでいそうな住居はない。だとすれば阿修羅先生のクリニックのように、何かの設跡を改造して住居にしている可能性が大きいと思った。
「基紀、いいのか?このまま旅を続けて」
「どういうこと?」
「あの子さ。ほら、お前に優しくしてくれたっていう女の子。どうしてももう一度、会いたいって言ってたじゃないか」
徹也が僕の顔を覗きこみながら言った。徹也は優しい奴だが、その気遣いが時には苦しい時もある。
「仕方ないよ、あの子は人間だし、僕は機人でその上お尋ね者だ。もう探しに行けるような身分じゃない」
「そうか……」
まるで自分のことのようにしょげてみせる徹也に僕は「ありがとう、本当は僕だって会いたいさ、でも……わかるだろ?」と返した。
※
僕が『天使』に会ったのは、今からひと月ほど前のことだ。
僕は例によって要領の悪さから不要なトラブルに巻きこまれていた。きっかけは、人間の不良たちがスラムに置き忘れた荷物をうっかり持って返ったことだ。
ある日の仕事帰りに僕は、不具合で動けなくなった機人を人間の不良が襲っている場面を目撃した。僕は大声で助けを呼び不良たちは逃げて行ったが、その時、不良たちが放りだしていったバッグを持ち帰ってしまったのだ。
人間の不良が『クラッシュゲーム』と称して壊れた機人を破壊して回っていることは、スラムの機人のみならず人間の社会でも問題になっていた。
バッグに目を止めた機人の大人たちは中をあらためさせろと僕に迫り、僕は深く考えることなくバッグを大人たちに預けた。それがよくなかったのだ。
数日後、人間のボランティアグループによるコンサートを聞き終えた僕が家に帰る途中、数日前にあった不良たちが突然現れて僕の行く手を塞いだ。そして「何か見たか?」と尋ねてきたのだ。
僕は「何の話?」ととぼけたが、バッグのことを言っているのは明らかだった。奴らはバッグから自分の身元がばれるようなものが出たのではないかとびくびくしていたのだ。
僕は不良どもに工具のような物でめった打ちにされ、雨の降るゴミ置き場に転がされた。
路地裏で酸性雨に打たれるままになっていた僕の前に現れたのが『天使』だったのだ。
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