第5話 闇の中の小さな機人たち 5
「拓さん……」
「どら、ちょっとそこをどきな。俺が見てやるよ」
拓治はそう言うと、徹也の傍らに屈みこんだ。なぜ、この人は徹也の身に起こったことがわかるんだ?
「ははあ、どうやら下顎のモーターに動きを伝える配線を切られたな。ひでえことをしやがるぜ」
「わかるんですか?」
「ああ、見ただけでね。……ただし、こいつは素人の仕業じゃない。顔の配線は数ミクロンという細さで、そこだけを切るとなると多少の技術が要る。こいつはおそらく『壊し屋』の仕業だ」
「なんです、『壊し屋』って」
「企業などに雇われて煙たい人間を黙らせる、要人御用達のトラブルシュータ―だよ。おそらく工場長が雇ったんだろうな」
「なんてことを……徹也が何をしたっていうんですか」
「昨日、お前さんのことで直談判するっていきまいてたろ?たぶん何か事を起こす前に黙らせようってことじゃないかな」
「ひどい……同じ見せしめにしても僕を狙わないで徹也を狙うなんて、信じられないよ」
「それがあいつらのやりかたさ。……結局、奴らは俺たち機人が怖いのさ」
「怖い?」
「俺たちはこの世に生み出される時、人間を傷つけることを禁ずるリミッターが組みこまれる。リミッターは制御システムに直結していて、故意に外そうとするとすべての機能が停止する。だが十年ほど前、リミッターの禁忌機能をこっそり解除させる装置が出現した」
「装置?」
「タナティックエンジンという装置で、開発した機人が自分の身体で試したんだ。だが禁忌を取り除くことは大いなる悲劇でもあった。人間の支配に慣れ切った機人たちの密告によって開発者は捕えられ、初期化された挙句バラバラに分解されたそうだ」
「装置はどうなったんです」
「復讐を恐れる人間たちによって、粗暴な傾向のある機人たちが軒並み中身をこじ開けられた。そして最後の一台までこの世から消滅させられた……はずだが、連中はそれでもまだどこかに、人間を恐れない機人が生き残っているのではないかと戦々恐々としてるのさ」
「それで『壊し屋』を雇って反抗的な機人を黙らせているんですね」
「そうだ。『壊し屋』はたいてい違法な改造に手を染めた技術屋のなれの果てだが、中には加速剤とナノマシンの注射で異常な能力を身につけた強化人間もいる。基本的に俺たち機人はパワーや反射速度に置いて人間を上回っているが、強化人間は俺たち機人と素手で対等に戦えるだけの身体能力を持っている。機械を恐れるあまり、怪物になることをいとわなかった人間……それが『壊し屋』だ」
「結局、どこまでいっても僕らは奴隷の身分から逃れられないってことですね」
「そうでもないさ。……お前さん『ハートブレイクシティ』って聞いたことがあるか?」
僕は頭を振った。初耳だった。
「機人が統治する、機人だけの街だ。人間もいることはいるが皆、機人の仲間たちだ」
「機人だけの街……そんな夢みたいな場所があるんですか」
「あるとも。人間たちもその存在には気づいているが、今の所大っぴらに制圧する気はないようだ。機人の間で情報の管理が徹底されていて、実態がわからないってこともあるんだろうがな」
「つまり、恐れているってこと?」
「そういうことだ。見つけるのは困難だろうが、生きて辿りつければひとまずは安全だ」
「行ってみたい。……その『ハートブレイクシティ』へ」
「本気か?」
僕は頷いた。ここにいたって遠からずどこかに飛ばされ、スクラップにされるのだ。
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