掌の爪の跡
彼女と死のうと考えていた。自分にも彼女にも居場所がなく二つで欠損していない腕となる様に掛け替えない肉体的な関係だったので死ぬ時も一緒に死のうとよく夜伽に涙を流しながら語り合っていた。
よくある文学小説の様に水入りをしようと言ったのはどちらなのか忘れてしまったがただお互いの腰に縄を括り付けたのは彼女であったことを覚えている。鬱血した掌で引っ張られる縄を見たときに彼女の流れる生命の動力と誤った指向性に嘲笑したくなり、そのせいで腰に水が浸かるまでひとごろしを伴う強い好奇心のおままごとから抜け出せずにいた。
彼女と握った指先に水が触れたとき漸く夢から覚醒し身も腐らせる死の恐怖を味わった。私が狼狽しても喘ぎ始めても彼女は変わらず手を握りしめ前に進んでいった。私の掌に売春の血が流れる程の爪を立てる程の力強さに私は死と腐りと同様な恐怖を感じ、取り繕うのに一苦労だった。
私達はどんどん足を進めていき顔に水飛沫が当たるまでになり、彼女が先導する形で目的地に進んでいった。目的地?そんなものはない、これは只の仕草だ。矮小な自分を理解していたからこその本当のおままごとに過ぎない。唯一の欠点は彼女が本気になり過ぎていることだ。
もう体全てが水に飲み込まれ、こうして私達の触れ合いを誰も見る事はなかった。彼女は私の掌を握り前に進もうとする。彼女に恐怖はないのか。死の恐怖のあまりここから逃げ出したかったが彼女は許さない、前々と彼女は私を導く。それ故私はナイフを振り回し、手のひらと腰の紐を切り落とし、後ろへ歩を進める。許さないという幻聴が聞こえ、気を失った。
目覚めたときには白い病院に投げ込まれ、医者の許しが出るまで外に出る事はなかった。しかし私は確かにその時に幸福を感じた。
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