非常出口の電灯
非常出口のあの緑の電灯を見ると思い出す。
制服を振り乱した少女が明かりのない銀の鉄の廊下を駆け、緑の海藻もどきの電灯がぼんやりと付いた分厚い非常出口のドアノブに手をかけた。少女が僅かな体重を使って扉を少しずつ開くと中から冷たい無機質の冷凍された風が少女の身体も傷付け侵入者として拒んだ。しかし少女は歩みを止めず、埒外からの超然的な強風の中に入り、建物の外付けの階段を上っていく。少女は冷たく乾いた世界がオレンジに染め上げられる中、上上と屋上へと、天井へと進んでいく。そして辺り全て障害物と障壁は外され前に進むことを拒むものはない。漸く長年夢見た自由を手に入れた。そのまま少女は世界の地平の縁に足をかけ、こちらに向きなおり、口を動かす。そして少女の背中から崩れ、真っ逆さまに。急いで少女がいた場所に辿り着き、覗き込むと先ほど変わらぬ姿で目を閉じている少女、そしてその下敷きになっている崩れた機械、それだけだった。
私がその映像を見たのは通学中の人が満杯に入り膨らんだ電車の中、イヤホンを付けて人の肘が囲まれ動くことが出来なくなった時にその映像に釘付けになった。情報共有アプリからその動画の情報が流れており、配信アプリでその映像を見たときには再生数は百を超えなかった。朝ずっとその映像を見ていたが始めの授業が終わると消されており、動画を配信アプリの運営が問題だと判断した為か載せた本人が消したのか分からない。くまなく調べてみてもその動画に関連した事件は見つからず、あの少女の存在はどこかへと消えてしまった。
非常出口のあの緑の電灯を見るとあの動画の、鉄に包まれたあの少女の顛末を思い出す。私の隠されたものを惹きつけて止まないあの死を。
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