内部の人間
その電車は地上に出て、家屋を通り過ぎり、窓越しに映る人がどんな行動をしているか分かるほど近くを抜けて空に向った。勿論本当に空に飛ぶわけじゃない、地上の鎖から離れられないで地表を鉄の歯を食いしばって眺めているのさ。公園で小さくなった小さい子供の遊ぶ赤いボールが年季の入った風景に僅かな色を付けていた。毎日の変化っていうのはなく、解体や建設による移り変わりも大きなキャンバス内での極小の点にでしかなく、点描画の一構成要因に過ぎない。そうだろう。
その時は勿論そんな事は考えていなかった、ただ時計を見て、そわそわしていた。電車というのは規則通りに動くのを基本としてるからね、本当はそんな事は起きないはずなんだけどいつも何だかその時が来るのを怖がりながらはしゃぎながら待っていた。時間に近くなると僕は寄っかかっている窓の方をむいてよく子どもが景色を見る様にシートに膝立する、あれをやった、勿論腰だけ動かしてね。そうすると目の前から離陸するかのように電車が斜めに傾き、こちらに合流するかのように近づく電車を見つける。そして電車同士が近づきお互いが乗せている微生物の様な客人が見える程になって止まる駅に発着順によってあっちの電車が先行し、中身の黒の塊が次々と流れていくのが見えた。そうなると次にこちらの電車も駅に止まるから速度が落ちる。その時に電車の中から彼女の姿が見える。そして僕と同じように窓から眺めていた彼女の掌が僕の掌に窓越しに重なる。これは彼女が考えた密かな遊戯でそれを行ってから僕は直接言葉を交わし触れ合うことが出来た。一度遅刻し電車が合わない時に彼女が強情になりそれが行えるまで何度も乗り降りして、地上に舞い降り時にはへとへとになりその後が台無しになった。それ以来僕が時間に厳格になって彼女と遊びに行く日の朝に連絡して彼女に遅刻させない様にした。何の問題もなく僕たちが手を重ねると彼女の電車が先行し彼女の姿を遠くから眺める、事はなく彼女の身体が急激に曲がりあらぬ方向へ飛んだ。僕の車両にいた人たちは一斉に窓越しの景色に食いついていた。
それ以来電車というものが苦手になった。いや乗り物全般が嫌いなった。外からでも何かに入っている人間の状態が分かる、それが駄目なんだ。それじゃあどうやって暮らしてるのかって、まさか暮らしていけないさ。だからこうやって毎日、薬を飲んで震えを止まらせているんだ。
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