【新・昔話】さいきょうのゆうしゃ
「昔々あるところに厄災と恐れられ、あらゆるハッカーたちの攻撃を原始的ながらも強靭な自己再帰性のある構築プロトコルに基づいたファイアウォールで防ぎきり、
歩行者信号の発火サイクルを乱したり、医療機関の待合リストをシャッフルしたり、偽造の証明書で箱物産業を解体して、自前の生産工場に改築したり、大規模なキャッシュの無力化を行って各地で借金を消滅させたりしました。このいたずら人工知能のおかげで、交換経済は大混乱を受けて人類の開発と成長は著しく阻害されることになりました。
こうしていつしか人工知能は魔王と呼ばれ恐れられるようになります。
各経済政府機関によって対策本部が建てられ、正規のハッカーたちが雇われ魔王に対する大規模なDoS攻撃が行われました。しかしそのいずれも魔王に無力化され、反対に攻撃を行っていた施設への情報攻撃や電力供給のシャットアウトによって返り討ちにされてしまいました。そうして金銭目当てのクラッカーたちが雇われ、あっさりと返り討ちにされ、打つ手のなくなった経済政府はついに武力行動に出ることにしました。
とはいえ、強力なハッキングと巧みな偽造証明による詐欺によって数多くのネットワーク上の複製体と物理的な自前の施設、資金、忠実な雇われ達を持っていた魔王は単純な軍事的行動によっては到底解体できるものではありませんでした。そこで経済政府達はランダムに選ばれた人間の中から特に才能のある人間を選び出し、彼らの物理的な複製体を構築しました。彼らは勇者と呼ばれ、魔王を破壊するためのあらゆる努力を義務付けられました。
そんな勇者たちの中で唯一人、ほとんど成果を出さない勇者がおりました。彼は勇者たちの中でも、また一般人口の系の中でも特に不安傾向の高い人間でした。その恐怖心の高さ故に彼は揶揄され、
そうこうしているうちに、人類は滅びました。生き残ったのは唯一人、最恐の勇者でした。
魔王はいいました。最恐の勇者よ。お前に世界の半分をやろう。お前が世界の半分を所有すれば、お前の不安も半分になるだろう。
最恐の勇者はその提案を喜んで受け入れました。こうして最恐の勇者は世界で唯一の勇者、世界の半分を所有する文字通り最強の勇者になりました。おしまい。」
「ママ、どうして勇者は怖がりなのに生き残るための努力が出来たの?」
「あら、不思議な質問ね。どういうこと」
「だって、経済政府って言っても情報的に啓蒙されてる組織でしょ?それを欺いて内部情報をリークするなんて尋常な努力じゃないよ。ほんとに不安傾向が強いなら、死ぬのが怖くってなんにもできなくなるんじゃないの?どうせ死ぬんだーって」
「あらあら、物知りね。でも死の観念なんてどこで習ってきたの?」
「それは……あっ、
「あらら、あなたまた
「ごめんなさい……でも僕もう啓蒙テストはもうすぐ満点だよ」
「うーん、そうねえ。確かにあなたの情報処理能力は減算が特異な分、他の子達よりももう随分高いものね。今度お父さんと相談してみましょうか」
「やったあ。でママ、死の観念は?勇者は僕らみたいに魔王に情報保障をしてもらったの?」
「違うわ。勇者は自分の複製保証を自前で用意したの。それに当時の物理的な複製体はすでに情報体よ」
「へぇ、じゃあ僕らと同じで身体がテキストデータでもいいんだ」
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