第6話 来ちゃった♡

「ふふっ。 来ちゃった♡」


「……はい?」


 ある休日の朝。 俺は夜勤のバイトが終わって速攻で家に帰り、睡眠をとっているとインターホンが鳴った。


 寝ぼけ眼をこすり、なんかネットで頼んだっけ?と思いながら玄関を開けると、そこにはバスケットを引っ提げた雫さんが立っていた。


 ……え、なんでこの人ここにいるの? 家の場所知らないはずだろ!?


「……なんで俺の家知ってるんですか??」


 いくら好きな人が相手とはいえ、家を教えていないのに来られのは恐怖心が湧いてくる。


 ただでさえここ最近の雫さんは圧があって怖いから、急に来られると本当に色んな意味で心臓に悪いよ。


「部長に用事があるから教えてって言ったら、すぐに教えてくれたわ」


「俺のプライバシー筒抜けじゃないっすか!!」


 部長! せめて一言断りを入れておいてくれよ!


「あの、家に入りたいんだけど入れてくれる?」


「まぁここまで来て追い出すのもあれですし……どうぞ。 汚い部屋で申し訳ないですけど」


「ううん。 ありがとう。 お邪魔しまーす!」


 俺の家に雫さんが来る。 本来なら嬉しくて胸が躍る筈のイベントなのに、俺の胸はあまり踊っていなかった。


「とりあえず座布団の上に座ってください。 お茶出しますよ」


「ありがとう」


「麦茶しかないんですけど、それで大丈夫ですか?」


「問題ないわ。 あ、見た感じだと照君、朝ごはん食べてないでしょ? サンドイッチ作ってきたから、一緒に食べましょ」


 なんでサンドイッチ作って持ってきたんだろう?……まぁ、いっか。 雫さんのサンドイッチ食べられるなら。


「はい、どうぞ」


「ありがとう。 なら、こっちも。 はい、どうぞ」


「ありがとうございます。 もう食べても良いですか?」


「良いわよ」


 俺は雫さんお手製サンドイッチを食べる。 とても美味しく、お店の物と遜色なかった。


「無茶苦茶美味しいです! お店のみたい!」


「ふふっ。 そこまで言ってもらえるなんて嬉しいわ。 まだまだいっぱいあるから、たんとお食べ」


 夜勤疲れなら身体に栄養がドンドン行き届いているのが分かる。


 やっぱり手作りで栄養がある食べ物っていいな。


「それで、用事があるから部長に家の場所教えてもらったんですよね? 用事ってなんですか??」


「それはね……」


「ごくっ……」


「特にありませーん」


「………えぇ」


「どう? 驚いた?」


 雫さんは無表情だけど、身体では目一杯はしゃいでいることを表現する。


 凄いな。 表情筋はほとんど動いていないのに、手とか指はもの凄い動いてる。


 情報がめちゃくちゃで頭がこんがらがりそうだ。


「照君の家に行ってみたくなったから、来た。 それだけだよ」


「はぁ……」


「どう? 驚いた?」


「もう色々なことがありすぎて、驚いているのかも分からないですよ」


 俺の様子を見て、雫さんは楽しそうに口元に手を置いてクスクスと笑う。


 その姿を見ると、なんだか毒気が抜かれてしまった。


「まぁ、来てくれたのなら遊びましょうか」


「そうしよっか。 まずはなにからする?」


「そうですね。 これとかは——————————」


 俺はなんだかんだ雫さんが家にいるという事実に興奮し、相手とかもいないのに優越感に浸る。


 結局、最初に抱いていた恐怖心とかはすぐにどこかに吹っ飛び、ひたすら楽しい時間を2人で過ごしたのだった。

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