第2話 新入生歓迎会

「新入生〜! 楽しんでるかぁ!?」


「う、うっす! めちゃくちゃ楽しいです!」


「なら良かった良かった! これからよろしくな照!」


 そう言って、酔っ払っている男の先輩はバシバシと俺の背中を叩く。


 今日はサークルの新入生歓迎会の日。


 俺はまだ二十歳になっていないから酒は飲めないけど、二十歳になっている先輩達は楽しそうにお酒を飲んでいた。


 うへぇ〜これが噂に聞く大学生のノリか。 まだ馴染めないなぁ。


 俺は先輩達に絡まれながら、なんとか当たり障りのない対応をする。


 1時間ぐらい経つと場のボルテージは最高潮になり、それとは逆に俺のテンションは下降気味になってきていた。


「わりぃ。 俺ちょっとトイレ行ってくるわ」


「いってらー」


 俺は近くにいる同じ新入生に声を掛けて外に出る。


 外に出ると春とは言え、まだまだ寒かった。


「ふへぇ……楽しいんだけど、気疲れしちゃうなぁ」


「そうね。 私もその気持ちがよく分かるわ」


「そうですよねーって、雫さん!? どうしてここに?」


 後ろを振り返ると、手を擦り合わせながら手に息を吹きかけている雫さんがいた。


 お酒を飲んだからか、雫さんの透き通った肌は少しピンク色になっていた。


「照君が外に出るところ見つけたから追いかけてきたの」


「そうだったんですね……ん? 照君?」


「?? 照君は照君でしょ? もしかして、読み方とか違ったりした?」


「いや、合ってますよ。 ただ、急に下の名前で呼ばれたからビックリしただけです」


 好きな人に下の名前で呼んでもらう。


 たったこれだけで心臓がドキドキするんだから、俺はなんてちょろいんだろう。


「ダメだった?」


 雫さんは俺の顔を覗き込む。 自然と上目遣いになり、雫さんの瞳に吸い込まれそうになった。


「へ、別にダメってわけじゃないっす! ただ気恥ずかしかっただけで……本当はめちゃくちゃ嬉しいっすよ」


 俺は顔を逸らして早口で言う。 真っ赤になっている顔を雫さんに見られるのは、なんだか照れくさかった。


「ふふっ……耳真っ赤にしてかーわい。 よしよし、いい子いい子」


 雫さんはクールな表情を少し崩し、優しい眼差しで俺のことを見ながらゆっくり頭を撫でる。


 18歳にもなって頭を撫でられのは恥ずかしい!って思ったけど、気持ち良い感触から逃れることはできなかった。


 ……この優しく頭を撫でられる感じ、なんだか懐かしいなぁ。


「元気になった?」


「おかげさまで」


「頭よしよしの効果が出たね」


「それ、恥ずかしいんで、他の人には言わないでくださいよ?」


「分かったよ。 なら、これは私と照君だけの秘密の約束だ」


 そう言って雫さんは小指を出してくる。


 ?? 一体なんだ??


「知らないの? 指切りげんまん」


「知ってますけど……え、やるんですか?」


 この歳にもなって?


「やるよ。 だって秘密の約束だもの」


「は、はぁ……」


 俺が小指を差し出すと、雫さんはそっと小指を絡める。


 柔らかい感触と冷たい感触がきて、なんだか不思議な気持ちになった。


「ゆびきりげんまん♪ 嘘ついたら♪ 照君の家で宅飲みをし〜ます♪ ゆびきった!」


「えっ! それ初耳なんですけど!」


「だって初めて言ったからねぇ」


 上機嫌で雫さんは指を離し、お店の中へと入っていく。


 それを俺は呆然としながら見送った。


 …………雫さんってクールビューティー系女性かと思ってたけど、あんがいユーモアあるんだな。


 俺はそんなことを思いながら、自分の小指を見る。


 俺の赤い糸が、雫さんの小指と繋がればいいな。


「へへ……なんだかポエミーなこと思っちゃったよ」


 俺は自分にツッコミを入れながら、お店の中へと入ったのだった。

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