第31話 罪には罰を
眩い光を放つ光球そのものに熱があるのか、光山は全方位にそれを照射して周囲を焼き尽くそうとする。
二人が危ないな……
俺は一旦光山から離れ、二人の元へ。
「ドール、イルザ様。俺の背中に」
「うん」
「え、ええ」
二人は混乱しながらも素直に従ってくれた。
「壁を作れ『ペブル』」
今度は詠唱も加えて唱える。
周囲の瓦礫が再構成され、壁になって俺達を囲う。
直後に膨大な熱線が照射された。
凄まじい光量に二人は目を瞑る。
数秒後、光が消えたと同時に壁が崩れた。
光山は––––
「はあっ……! はあっ……! く、くく、これがオレの本当の本気だ……!」
纏っていた光は無くなっていたが、代わりに背中から左右に四枚ずつ翼が生えている。
天使のように見えるが、人相が極限まで悪くなっているので悪魔にしか見えなかった。
ある意味本性と言える。
「勇者からニワトリにでも転職したのか?」
「黙れ! 『サウザンド・エアカッター』! 『エターナルフレア』! 『アイスエイジ』! 『ゴスペル・ジャッジメント』!」
翼が輝く。
すると光山は特級と思しき魔法を無詠唱で唱えた。
地面からは炎と氷が、空中からは風の刃と光の熱線が同時に放たれる……あれが奴の本気か。
俺は地面を拳で叩いて炎と氷を消滅させ、雷の低級魔法で風の刃と光の熱線を相殺した。
あの程度の魔法、今の俺には児戯に等しい。
「あ、ああ、あり得ない、あ、ありえ……」
「さっきまでの俺が抱いてた感想だよ、それ」
高く跳躍し、回転しながら踵落としをぶち込む。
地面に這い蹲る光山だが、首元を掴んで強引に立たせながら告げた。
「立てよ、俺の怒りはこんなもんじゃ収まらない」
「う……が、あ……」
苦しそうに呻く光山。
まだ足りない、もっと、もっと苦しめ。
憎しみを凝縮させた左手の拳を叩き込む。
「これはルピールの分」
「がはっ!?」
翼が一対消えた。
「これは魔獣の軍勢との戦いで死んだ人達の分」
「ひぎっ!?」
また一つ翼が消えた。
「これは、ドールに手を出そうとした事への怒り」
「あばあっ!?」
残りの翼も全て消えた。
ダランと、両腕を力無く下げる光山。
関係無い。
首元を掴んだまま、投げ飛ばした。
「がはあっ!?」
治癒能力も残ってないのか、瓦礫の山に突っ込んだ光山の体は血だらけで、ただの人間のように見えた。
それでも震える両足で立ち上がる。
「……ごふっ!?」
俺の身体も悲鳴をあげていた。
喉の奥から血を吐き出す。
口内にじんわりと広がる血の味。
心臓が鼓動する度に細胞が死滅する感覚。
もう猶予は無さそうだ。
「……ああっ……はぁ……! や、矢野おお……」
「っ……はっ……!」
互いにフラつき、身体中から血を流しながらも最後の魔法を唱えようと、詠唱を始めた。
「この世界の神よ––––」
光山は帝級魔法を使おうとしていた。
感覚で分かる。
だがどれだけ強力でも、長すぎる詠唱はどうしても隙を生む……それを分かっていながら、奴は使う。
光山にとって、帝級魔法こそが力の象徴。
自分を強者だと知らしめる手段。
世界王なんて夢を実現させようと思わせた、希望にして元凶の魔法––––
ならば、打ち砕こう。
最強の帝級を、最弱の低級で。
ただ一言、魔法名を唱えるだけでいい。
それが、低級魔法唯一の強みなのだから。
「––––シード、フレア」
右手をかざす。
最弱の種火は暴走した魔力の渦を吸い、帝級魔法に勝るとも劣らない獄炎へ昇華する。
そして……光山の体を、焼き尽くした。
「ああああぁぁぁぁ……」
小さく声を漏らす光山。
炎の中で人影が揺らめく。
俺は炎を鎮火させて、近付いた。
確実に始末するには、炎では弱い。
「光山」
「……ぁ……」
「じゃあな」
黒焦げになった奴の顔に、拳を振り下ろす。
顔面はあっさりと砕け肉の破片と化した。
罪悪感は無い。
死闘の果て––––勝利したのは、俺だった。
◆
「う……」
「ユウト!」
「ユウトさん!」
勝った。
その事実を確認した途端、力が抜けた。
暴走した魔力も使い切ったのか、あの禍々しい姿形からいつもの矢野優斗の容姿に戻る。
ただ、肉体へのダメージが凄まじい。
手足を動かす事だけは出来るが、呼吸をするだけで肺が痛み、全身の筋肉が震える。
「ユウト、ユウト!」
「ドール……」
「ユウトさん、今の貴方はとても危険な状態です。直ぐに治癒魔法で処置しますので、安静にしてください。命に関わります」
イルザ様が早口言葉のように言う。
彼女も相当焦っているようだ。
まあ、覚悟していた事だから驚かない。
「エルザ、二人で治癒魔法を重ねます。杖は奪われてしまったようですが、出来ますか?」
「問題無い」
「頼もしい言葉です、さあいきますよ」
王族の親子が揃って魔法を詠唱した。
「『ハイ・ヒーリング』!」
「『ハイ・ヒーリング』!」
光属性の治癒魔法が二重で発動する。
魔法には『共鳴現象』というものがあり、同じ魔法を合わせて使うと効果が上昇するのだ。
「これは即効性のある治癒魔法」
「本格的な治療は、この後にしましょう。最も、殿下達の成果次第で私達の境遇も変わりますが」
そうだ、目的は光山を倒す事じゃない。
フェイルート王の首を獲ることだ。
タイダル殿下達は上手くやったのだろうか。
「それを知る為にも、今は貴方の治療が先決です。エルザ、出力を上げますよ?」
「お母様こそ、ついて来れる?」
「あら、言うじゃない。私もまだまだ娘に負ける老いぼれでは無いわ」
なんて会話を聞きながら身を任せる。
この二人、本当に仲の良い家族だ。
再会できて心の底から嬉しいだろう。
もしかしたら……ドールは王女の立場に戻って、城で暮らすようになるかもしれない。
王を失脚させる事ができれば、もう二人の間を阻むモノは何も無くなるのだから。
その時……俺はどうなるのだろう。
一度は城を追放された身だ。
それに勇者リュウセイを殺害している。
彼の悪行はまだ明るみに出ていない。
更に言えば、証拠もあるかどうか怪しかった。
あれ? 俺ってかなりヤバい?
「あのー、俺ってどうなります?」
「ユウトさんですか? 貴方の追放を決めたのは王ですし、城に戻る事も出来ます。とは言え一度は追い出したのは事実ですから、ユウトさんのやりたい事をやればいいと、私は考えています。束縛はしません」
大丈夫そうだった。
しかし、俺のやりたい事か。
んー、とくに無いなあ。
今までは色々と必死だったし。
強いて言うなら、ドールと一緒に居たい。
だったら城に戻るのもありなのかな。
ああ、その前に店長達と祝勝会しないと。
「はい、応急処置は終わりました」
「ユウト、大丈夫?」
「ああ、何とかな」
むくりと起き上がる。
ドールがやって来て、手を握ってくれた。
「ユウト……本当にありがとう」
「もう気にするなって、さっき散々お礼は聞いたからさ、お互い平常運転で行こうぜ」
「でも」
彼女は尚も食い下がらない。
そうだ、あの手を使おう。
「なら、お姫さまを助けた勇者さまにキスでもしてくれよ、ご褒美の」
以前、冗談でキスを強請って怒らした事があった。
そんな感じ引いてくれると思ったのだが––––
「いいの? そんな事で」
「え?」
彼女は両手で俺の頰を包み込む。
そして真っ直ぐ見つめながら言った。
「ユウト。私の、勇者様…………私の全部は今日から、貴方のもの。だから遠慮しないで」
「あ……」
目を瞑るドール。
そのまま口元を持ってきて……キスをされた。
唇と唇が重なる。
「ん」
「んっ、く」
驚いて離れようとしてしまう。
だけど両手がそれを許さない。
仕方なく……否、望んでキスを受け入れた。
どのくらい唇を重ねていたのかは分からない。
一瞬だと思えば一瞬だし、永遠と言えば永遠。
確実に判明しているのは––––その瞬間、俺は胸を張って『幸せ』だと言えた。
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