第32話 戦い終わって

 その後、イルザ様が子供の名前はどうするの? とか言い出して色々あったが割愛する。


 あの人見た目も雰囲気も高貴な方だけど、中身は大人と子供が同居してるような人だ。




 で、俺は何とか歩きながら王城の外へ。


 出口には王妃派の人が既に大勢いた。


 どうやらタイダル殿下とロマノフ団長は無事に王を討ち取ったようで、別の出口から外に出て王妃派の勝利宣言をしていたらしい。




 光山を倒して、心底良かったと思う。


 あいつがいたら全部台無しになっていた。


 寧ろ王よりも酷い悪政を敷いていたかも。




 殺人を正当化するつもりは無いが、別に綺麗事を主張するつもりも無かった。


 クラスメイトを殺した罪は、一生背負うが。




 国王派の連中も直ぐに投降した。


 自分達のリーダーが殺されたなら、国王派に所属する意味も理由も無いからだろう。




 あとは……ルピールの死。


 彼女の戦死は、多くの者を悲しませた。


 勇敢な女騎士は、最後まで正義を貫いた……彼女の志は、ずっと受け継がれてほしい。




 そして、全てが終わった日の数日後。




「ユウト」


「ドール? 今日も来てくれたのか」


「うん」




 俺は治療院に入院していた。


 俺の体を診察した治癒師(この国の医者)達は血相を変えてただちに大規模術式の準備を始めよく分からない薬を飲まされたりしたが、もうすぐ退院できるくらいには回復している。




 あの時の俺は相当酷かったらしい。


 身体中の臓器にダメージがあり、全身の骨にもヒビが入っていた有様。




 動けるのが奇跡だと言っていたっけ。


 魔力操作法には自己治癒能力も高めるので、膨大な魔力が俺を傷付けると同時に癒していたのだろう。




 何にせよ……治癒師からも、ドールからも、もう二度と神纏は使うなと念を押された。


 次使えば、確実に寿命が縮むとも言われたな。




 俺も好き好んで使ったワケじゃない。


 ドールを助ける、という目的があったからだ。


 何も無ければ使わない。




「昨日は店長が来てくれたよ。全く、皆んな心配症だなあ」


「当然。皆んなユウトを心配している」


「それは……嬉しいな」




 店長やベリーともまた会えた。


 残念ながら、祝勝会はまだ出来てないけど。


 それから魔鋼鉄の剣を壊した事を謝ったら。




「何言ってんだ、持ち主の武器になって、その上身も守ったんだ。武器冥利に尽きるぜ」




 と、言いながら笑っていた。


 相変わらず豪快な人だ。


 代金はいつか必ず返そう。




「イルザ様は元気そうか?」


「うん、でも毎日忙しそう」


「ま、そりゃそーだよな」




 次の王はタイダル殿下になった。


 国民には、王は急死したと伝えている。


 好かれてない王だったからか影響は少なく、寧ろ若く聡明なタイダル殿下が王になった事を喜ぶ層の方が多く、王位継承は驚くほどスムーズに終わった。




 彼ならきっと、良い王様になる。


 そんな予感がした。


 で、問題は光山の方。




 彼が魔獣の軍勢を王都に誘き寄せていた事を知った王妃派の人達は、激しく憤っていた。




 光山が悪党だった事実は公表されたが、既に英雄としての名前が広まっていた為直ぐに誰もが信じるというワケにはいかなかったが、実際もうこの世には存在しないのでどうする事も出来ない。




 死んだ後も厄介だなあ、アイツは。




「それで、ドールはどうするんだ?」


「私は……」




 彼女には二つの選択肢があった。


 王女に戻るか、今のままか。


 イルザ様はドールの意思を尊重すると言っていた。




 ずっと悪い大人に振り回された人生。


 これ以上は縛りたく無いのだろう。


 だけどドールは、答えを出さずにいる。




「……私は、あなたと一緒に居たい」


「ドール」


「あなたは私の勇者様。だから手伝いたい」


「そりゃ、ありがたいな」




 彼女はこう言っているが、いいのだろうか。


 俺にそんな責任を背負えるとは思えない。


 自分の事だけで精一杯だ。




 ……いや、何考えているんだよ俺。


 いつまでガタガタ悩んでやがる。


 気持ちなんて、とうの昔に決まっているのに。




「ドール!」


「きゃっ」




 グイッと、彼女をベッドへ引き込む。


 そして抱きしめた。


 二度と離さないとばかりに。




「ユウト……?」


「さっきの言葉、聞いたぞ。それってつまり、そういう事なんだよな?」


「それって……」




 言葉を濁さずに俺は行った。




「俺のことが、好きなのかってこと」


「っ、それは!」


「因みに、俺はお前の事が好きだ」


「っ!?」




 サラッと告白してしまった。


 でもまあ、いいか。


 彼女を愛しいと思ったあの気持ち。




 人を本気で好きになった事は今まで無かった。


 でも、今ならハッキリ言える。


 俺はドールが、好きだ。




「わ、私も……」




 彼女は震える声で言葉を紡ぐ。


 丁寧に優しく、自分の気持ちを包み込みながら。


 急かすような真似はしない。




「ユウトのことが、すき」


「……ありがとう」




 スッと、一旦離れる。


 お互いの顔を直視した。


 ドールは涙目で微笑んでいる。




 また彼女の新しい一面が見れた。


 きっとこれから、色んな発見がある。


 その全てを、魂に焼き付けたい。




「なら、イルザ様にはこう言うか。二人一緒になれる道を選びますって」


「それしかない」


「はは、まーあの人は嫌だと言っても色々協力してくれるだろうけど……」




 これから毎日、孫の顔を見せろと催促されそうだ。


 でも……付き合うのか、俺とドール。


 チラッと彼女の体を見る。




 何度見ても小学生くらいの女の子だ。


 日本だったら多分逮捕されている。


 でもここは異世界だ、阻むモノは何も無い。




 そして俺は、いつかあの体を味わえる。


 え……? ヤバくないか……?


 こんなのどんなエロゲでも風俗でも体験できない。




 一度妄想を始めたら止まらなくなる。


 必然的に、俺の男の部分が反応した。


 布団をかけているからバレ無い……と思っていたが、よく考えたらドールは今俺の腰辺りに座っていた。




「……あ、え……? これ」




 気づかれた。


 顔を俯いて必死に誤魔化す。


 最悪だ、どうしてこんな時に。




 告白した直後にこのざまって、身体目当てです! と公言してるようなもんじゃねえか。


 少なくとも俺ならそう受け取る。




「ユウト……これ」


「な、なんでもない。気にするな」


「……いい」




 ポツリと、彼女が呟いた。




「ユウトになら、いい」


「へ?」




 ドールはいつものローブを脱ぎ始めた。


 綺麗に畳んで側に置くと、今度はシャツのボタンをぷち、ぷち、と外していって––––




「ど、ドールさん?」


「私はもう、ユウトのもの。あなたの好きなようにしていい存在」




 実に男心をくすぐるセリフだ。


 影響を受けたとかじゃなくて、恐らく本心から言ってるだろうから余計に喜びがある。




 そしてボタンを全て外し終えたドールは、シャツをハラリと脱ぎ捨てた。


 白いブラジャーが小さな胸部を覆っている。




 俺は街灯に導かれる虫のように手を伸ばし、下着の上から撫でるように胸に触れた。


 小さいけど、弾力はちゃんとある。




「ぁ……ん」


「生で見たい」




 欲望をそのまま口にする。


 理性は完全に蒸発していた。


 ミニスカートとブラジャーという着衣の組み合わせもいいが、やっぱり裸が見たい。




「外して」




 くるりと背を向くドール。


 そのまま襲いかかって何もかもぐちゃぐちゃにしたい欲に耐えつつ、ブラジャーのホックを外した。




 ポトリと、下着がベッドの上に落ちる。


 ドールは再び正面を向く。


 両手で胸を隠していた。




 思わず手を退けてと言いそうになったが、その前にやるべき事を忘れていたので口にする。


 個人的に、かなり勇気のいるカミングアウト。




「あの、太ももとか足裏、触っていいですか」


「え……? 足の裏……? ど、どうして?」


「ど、どうしてと言われても……その、あの……そういうのが好きだからとしか……」


「……分からないけど、わかった」




 彼女は戸惑いながらも、許してくれた。


 俺は女性の足が好きだったりする。


 性癖を受け入れてくれて、安心した。




「ん……」




 片足を前に伸ばしてくれる。


 白いソックスに包まれたつま先が、目前に。


 興奮と嬉しさで泣きそうになる。




 俺は多分、この瞬間の為に生きてきたんだ。




「さ、触るぞ」




 ピトリと、両手で片方のつま先に触れた。


 指で揉むと、フニフニとした感触。


 そのまま持ち上げ、顔に近付ける。




「……あ、だめ……」


「……?」


「それは、はずかしい……」




 と、言われても。


 暴走気味の俺は止まるハズも無く、自分の顔に彼女の足裏を押し付けて––––




「な、何やってるんですかお二人とも」


「……」


「……」


「こ、ここ個室とは言え、治療院ですよ……?」




 扉の前で呆然と立ち尽くすのはベリーだった。


 彼女も見舞いに来てくれたようだが……うん、まあ、今日も平和な毎日だなあ。




 ……その後、誤解を解くという名の誤魔化しに苦労したのは言うまでも無かった。

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