第23話 真実
この三日間、俺はドールを探しに探した。
連合軍に聞いたところ、彼女は現在『生死不明』。
生存者名簿にも戦死者名簿にも載っていない。
希望があるなら、諦めない。
彼女の行きそうな所は全て回ったし、ギルドに見つけたら連絡してほしいと頼んである。
だが……成果は何も得られてない。
目撃情報は一切無かった。
ギルドは死亡者として扱うらしい。
大きな戦で行方不明者が出るのは珍しい事でもなく、場合によっては死者より多い……遺体が敵の攻撃で粉々になったりするからだ。
俺はそんなの認めない。
必ず生きたドールと再会すると胸に誓った。
そして––––魔獣軍勢襲来から四日後。
運命の転機が訪れる。
その日は黒色冠で閉店作業をしていた。
「坊主、外の掃き掃除頼むわ」
「はい」
「あー、それと……無理すんなよ」
「……はい、大丈夫です」
箒とチリトリを持って店の外へ。
店長には見抜かれていた。
ここ最近、心労からロクに眠れてない。
自由な時間は全てドールの捜索に使っている。
無理をしてる自覚はあったが、彼女を見つけるまで絶対に手を抜くことはできない。
ゴミを集めながらそう考えていたら。
「––––久し振りだな、ユウト殿」
夜の闇の中から、フードを被った人物が現れた。
声からして、多分女性。
身軽そうな格好をしていた。
「失礼ですが、何処のどなたですか?」
「私だ。貴殿が覚えているかは、怪しいが」
「––––あ」
フードを外す女性。
その顔には見覚えがあった。
確かイルザ様の護衛の一人、名前は……
「ルピール、か?」
「ほお、我が名を覚えてくれていたとは」
彼女はニヤリと笑う。
「えーと、何の用だ? 俺仕事中なんだけど」
「時間が無い、単刀直入に言おう––––エルザ様……いや、ドール様が攫われた」
カツンッ
箒とチリトリを落とした。
だが、拾う気にはなれない。
俺はルピールの顔を直視する。
「それ、本当か?」
「貴殿なら察しが付くはずだ。この数日間、必死に探していた貴殿なら」
「……ああそうだ、俺はドールを探していた。だがどうしてそれをあんたが知っている?」
「協力者を探していた。エル……ドール様と、イルザ様を救う為にも」
協力者だと?
イルザ様の名前も出てきて混乱してくる。
大体彼女達とドールはどんな関係なんだ。
「貴殿の疑問は分かる、だから全て話そう」
そう言ってからルピールは語った。
「ドール様の本名は、エルザ・フェイルート。イルザ様の娘で、この国の王女だ」
「はあっ!?」
いきなりとんでもない事を言われた。
ドールが偽名で、王女さま!?
突然の情報に気絶しそうになる。
「落ち着け、続けるぞ? エルザ様は幼少期の頃は母であるイルザ様と暮らしていた、だが……フェイルート王は妻であるイルザ様に歪んだ愛情を持っていたのだ。血を分けた自分の娘にすら嫉妬する程の、イルザ様に対する独占欲だ」
フェイルート王は妻のイルザ様を深く愛していた––––度がすぎるほどの、歪んな愛を。
二人はそれでも相思相愛だったが、イルザ様がドールを出産してからは状況が変わる。
当たり前だが、イルザ様は自分の娘に愛情を注ぐ。
そんな当然の事にフェイルート王は激しく嫉妬し、ドールが六歳になった頃、彼は壊れた。
「フェイルート王は権力で強引にドール様の身分を剥奪し、平民として市井に送った。それ以降新たな子供は頑なに作らず、今は王家の血を持つ公爵家の子を自分の子として偽っている」
「あ、あり得ないだろそんな事。イルザ様だって、黙ってるワケがない」
「そうだ、当時のイルザ様は激しく反発した、当然だな。フェイルート王へ愛想を尽かし、どうにかエルザ様を救えないか手を考えていたが……」
「全て王に邪魔されたってか?」
「その通りだ」
「……ははっ、何だよそれ」
狂ってやがる。
あの野郎、謁見の間では偉そうにしてた癖、裏ではそんな外道行為を平然としてたのか。
ヘドが出る。
「それが過去の話だ。そして現在だが、貴殿の同郷の勇者達が亡命した噂は知っているか?」
「ああ、話題になっていたからな」
「それは事実だ。勇者リュウセイと三人の上級勇者を残し、他の者は全員この国を出た」
「……無駄に行動力のある奴らだな」
残った三人の上級勇者の内一人は、鮫島に丸焼きにされた木村だとルピールは言う。
「問題はここからだ。イルザ様の愛を失ったフェイルート王は、強い力を求めるようになった。勇者召喚も元を辿れば王の独断性が強い」
俺達はそんな理由で召喚されたのか。
「だが今、多数の勇者達は我が国を去っていった。私としては勇者リュウセイ一人でおつりがくると思っているが、フェイルート王はそうは考えてない。新たな力を求め他国との結び付きを強めたいそうだ、そこで……エルザ様を政略結婚の道具にしようと、強引に攫った。これが事の全てだ」
話しを聞き終えた俺は怒りで黒色冠の壁を破壊しそうになったが、手前で踏みとどまる。
拳を力強く握り締め、ルピールに問う。
「……ドールは今、何処に……?」
「王城に幽閉されている」
「そうか……情報、助かった」
俺は武器を取りに部屋へ戻ろうとする。
「待て、何をするつもりだ」
「ドールを助ける」
「なら話は早い、我らも志は同じだ」
「我ら?」
ルピールは言う。
今の王城は王妃派と国王派で割れていると。
フェイルート王の暴走は目に余り、多くの貴族が彼を玉座から降ろそうと前々から計画してたそうだ。
その王妃派もドール救出に参加するようである。
「それにイルザ様も幽閉されているからな。フェイルート王が政争の為にエルザ様を呼び戻した事を知ったイルザ様は激昂して王に詰め寄ったが、私兵により捕らえられてしまった」
「救いようのないクズだな」
「そうだ。だからこそ、正さねばならん」
しかし王妃派が協力してくれるなら心強い。
どれだけ工夫を凝らしても、俺は低級勇者だ。
仲間は多いに越したことはない。
「分かった、俺も協力する。決行はいつだ?」
「この後直ぐだ」
「少しだけ待っててくれ、準備と……別れを」
「……ああ」
俺は素早く準備を済ませ、店長と会う。
今回の救出作戦、失敗したら処刑される。
行けば最後、生きて戻れるか分からない。
「店長」
「おう坊主、掃除遅かっ……」
店長は俺の顔を見て、何かを察したようだ。
力無くため息を吐きながら背を向ける。
「店長、俺」
「言わなくていい、その顔を見れば分かるさ。覚悟を決めた男の顔だ……行くんだろ?」
「はい」
彼は頭をかきながら言った。
「全く、ガキってのはいつのまにか成長しやがる。ま、だからこそ育て甲斐があるってもんだが……ほらよ、これ持ってけ」
「て、店長? これは……」
渡されたのは刀身が黒い片手剣。
黒色冠の看板商品だった。
初めてこの剣の値段を見た時の衝撃は覚えている。
「その剣は魔鋼鉄って貴重な金属で造った剣でな、ある程度の魔法なら斬り裂ける優れもんさ。持ってけ、貸してやるよ」
「で、でも」
「いいから、黙って借りろ。そして––––絶対、帰って来い。今度はドールの嬢ちゃんも連れて」
それだけ行って、彼は店の奥に行ってしまった。
俺は頭を下げながらお礼を言う。
「ありがとうございます! 絶対、二人で帰って来ますから……行って来ます!」
最後にそう言い残し、黒色冠を出た。
この店は今や、俺の第二の我が家。
帰って来る場所なのだ。
だから必ず戻って来る。
ドールを助けて。
そして今度こそ、祝勝会をするんだ。
「行くぞ、ユウト殿」
「ああ、全速力だ!」
俺はルピールと二人で、夜の王都を駆けた。
「––––死ぬなよ、ユウト」
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