第2話 魔法適性
ほぼ強制的に方針が決まったその後。
フェイルート王国の国王と謁見する事になった。
事前に決めらていた予定のようだが、もし俺達が世界救済の頼みを断っていたらどうするつもりだったのか非常に興味がある。
まあテイルドの様子からして、偉大な創造神サマ直々の神託を断るはずが無い! と思って準備していたのだろう……実際そうなっているのだが。
そんなワケで、謁見の間へと赴く一同。
なんと今居る施設そのものが王城だった。
通路に甲冑や絵画が沢山飾ってあったので、ただの大きな建物では無いとは思っていたけれど。
「着きました」
テイルドが言う。
目前には三、四メートルはありそうな大きな扉。
扉の両脇には武装した兵士が二人立っていた。
二人の兵士はこちらに一礼した後、滑らかな動作で扉を開け、謁見の間への道が開かれる。
中には既に何人もの人物が待機していた。
一番奥の玉座に鎮座しているのが、国王か。
申し訳ないが、特徴的な要素は無い。
強いて言うなら鋭い目つきかな。
玉座の隣にはもう一つ、国王に比べると装飾が控えめな椅子があり、そこには美人が座っていた。
恐らく王妃だろう、彼女は優しそうな雰囲気を持っており、一瞬だけ俺達を見て悲しそうな顔をする。
入り口から玉座へと敷かれた赤い絨毯の脇には、高貴な雰囲気を纏った者達が何人も並んでいる。
殆ど男性だったけど、数人女性も居た。
完全な男性優位社会では無いようで、これには現代の自称被差別主義者の方々も大喜びだろう。
更に室内の隅々には槍を持った兵士がズラリと。
するつもりはこれっぽっちも無いが、妙な事をしたらあっという間に取り押さえられるだろうな。
で、一同はテイルドを先頭に進む。
こういう場の、その上この国の礼儀作法を何も知らない俺達はとりあえずテイルドの真似をする。
周りの貴族っぽい人達も、何も言わない。
発言する権利を持ってないだけなのかも。
なんでもいい、とにかく謁見は問題なく続く。
玉座の前に着くと、テイルドは跪いた。
習って俺達も頭を下げる。
国王は直ぐに口を開いた。
「皆、顔を上げてくれ」
そこから先はただの自己紹介だった。
国王の名前はアーサー・フェイルート四世。
王妃の名前はイルザ・フェイルート。
あとは有力人物達の紹介。
半分過ぎた辺りで覚えるのをやめた。
色々な利権が絡んでいる事だけは分かる。
王国側の紹介が終わると勇者一行代表として、光山だけが軽い自己紹介をした。
それまで沈黙を守っていた貴族達が、ギラギラした目で彼を見ていたので、恐らく今後も勇者側の重要人物として狙われるだろう。哀れ光山。
「うむ、お主達の今後の活躍に期待している」
最後に国王がそう言って、謁見は終了する。
俺は一言も発して無いのにやたらと疲れていた。
他の生徒達も同じのようで、今日はもう解散、各自割り振られた部屋で休息という事に。
部屋数の問題で二人一部屋になったが、室内はかなり広く三人でも問題なく使えそうだった。
休息前に、テイルドは言う。
「皆様には明日から訓練を始めてもらいます。期間は一ヶ月から三ヶ月を目安に、こちらが大丈夫だと判断した勇者様から、各地に赴いてもらいます」
訓練か……と、少し不安になる。
運動はあまり得意では無い。
この世界で生きるにあたって、強くなるのは必須というか俺達の立場上、半ば義務なんだろう。
ただまあ……怯えているばかりかと問われたらそうでもなく、寧ろワクワクしている面もあった。
俺も男だ、冒険には憧れるし魔法にも興味がある。
明日が楽しみだ––––食事と入浴を済ませた俺は、これからの未来を明るく考えながら眠りに落ちる。
……それが甘い願望だったと、知らずに。
◆
翌日。
言われていた通り、早速訓練が始まった。
内容は座学と実戦の二つ。
まず最初に座学が行われた。
これじゃ学校と変わらないと誰かがボヤく。
俺も全く同意見だった。
「今日はお前達の魔法適性を調べる!」
教えてくれるのはフェイルート王国騎士団を率いる歴戦の猛者、ロマノフ団長。
魔法使いのイメージと大きく離れた人で、会って早々砕けた口調でフレンドリーに俺達と接する。
因みにこの世界は騎士=魔法使いという扱いだ。
だから騎士団も全員が魔法使いで、槍や剣を振り回して戦うのは魔法が使えない者だけらしい。
それだけ魔法が力の象徴として根付いている。
魔法の腕の良さで立場が決まるような世界だった。
つまり、この魔法適性はかなり重要って事。
ロマノフ団長は「歴代勇者は全員優秀な魔法使いだったから安心しろ!」と言っていたが、さて。
「じゃあ、出席番号順に調べようか」
光山が言うと、出席番号一番の生徒が前に出る。
彼はロマノフ団長が用意した水晶に素手で触れた。
すると水晶球が紫色に輝く。
「おおっ! いきなり特級魔法の適性持ちか!」
ロマノフ団長が大声で叫ぶ。
一番の生徒は満更でもなさそうだ。
ここで今さっき習った魔法適性について説明する。
魔法適性とはその名の通り、術者がどの段位までの魔法を使用できるかどうかの基準だ。
段位は低級、中級、上級、特級の四つ。
段位が上がれば上がるほど魔法の効果は高まり、魔法使いとして優れていると証明できる。
つまり一番の生徒はとても優秀だ。
その後も次々とクラスメイトが水晶に触れる。
上級、特級、上級、上級、特級––––
なんと全ての生徒が最低でも上級だった。
しかも。
「次は……リュウセイか!」
「はい」
光山の番がやって来る。
同じ勇者なのに何故か皆、彼には期待していた。
「よし……やるぞ」
水晶に触れる光山。
光は––––黄金色だった。
上級魔法の赤でも、特級魔法の紫でも無い。
初めて見る色にクラスメイトは驚く。
そしてロマノフ団長と騎士団関係者は、唖然としながら震え……
「で、伝説の……帝級魔法、だと……!?」
「ロマノフ団長、これは一体……?」
「……リュウセイ……お前は間違いなく、創造神ヴィナス様に選ばれし、真の勇者だ!」
「俺が、真の勇者……」
なんか二人で盛り上がっていた。
俺は近くにいた騎士団員に聞いてみる。
「あの、伝説の帝級魔法って何ですか?」
「あ、ああ……特級を超える、五つ目の魔法だよ。水晶が黄金に輝くとは聞いていたけど、まさか本当に起こるとは……」
へー、よく分からないけど凄いのか。
光山は異世界でも人気者の素質を持っているようで、最早嫉妬すら湧かない。
同年代とは思えないな、色々と。
それから暫くして、最後に俺の番。
当たり前だが、誰も俺に興味を抱いてなかった。
ロマノフ団長だけが結果を見届けてくれる。
「ユウトで最後か」
「はい」
少しだけ緊張しながら、水晶に触れる。
最低でも上級なら、不安に思うことは何も無い。
そう、思っていたのに。
「え?」
水晶は……黒色に濁った。
「……て、低級……?」
ロマノフ団長が呆然と呟く。
ていきゅうと言っていた。
そっか、俺も伝説の帝級魔法使いかあ!
ははははは!
「……まあ、その、なんだ……魔法適性が全てでは無いぞ? 世界救済には、腕っ節だけが強くても解決できない問題が沢山ある!」
ロマノフ団長が励ましてくれる。
だけど、俺の目の前は水晶と同じで真っ黒だった。
ああ、そっか……俺、期待してたのか。
この世界では主役になれるかもって。
元の世界ではただの冴えない学生で、中学も高校も目立つ事なく過ごしていた俺でも、凄い力に目覚めて世界を救って……英雄になれるかも、なんて。
でも、現実に選ばれたのは光山みたいな奴で。
俺は……上級魔法の適性すら無い、言ってみればスタートラインにすら立ってないような奴だった。
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