第2話 風になる

今日の部活では裏方会議がある。

初めてやることだからやはり楽しみだ。


部活を始める準備をしていると見たことない新入生が部室に入ってきた。

「あの、入部届持ってきたんですけど。」

とその子は言う。私と春奈となつは動揺しながらも喜んだ。

一人でも多く部員がいて欲しかった。


裏方会議にはその子も参加した。その子のあだ名はおつると言うそうだ。そのままではつまらないので おつるん と呼ぶ事にした。

裏方会議では照明の話や音響を入れる場所、衣装案の話をした。最初は何を話しているのか全く分からなかった。そんな私達に先輩方はその都度丁寧に用語を教えてくれた。


その中でこんな話も出た。

劇中に出てくる風のト書きを音響では無く全て人間で表現したいという提案だ。

面白いと思った。台本に書いてある訳でもない風を目に見えない風を人間で表現するのだ。どうなるか楽しみだ。


私は完全に気を抜いていた。人ごとだと思っていた。


「ダンスやってたんだよね?振り付けやってくれない?」

…この一言までは…。


小学六年生の夏休みにダンスをやめてから踊りたくて仕方のない自分はいた。だから部活に入るかも迷った。


ここは踊れる場所なのかと一瞬心がときめく。

我に返って考える。それはつまり私が振り付けをして先輩に教えるということだ。恐れ多い。

最初は断ったが、結局押しに負けた。嬉しかったというのも少しあるのかもしれない。振り付けはやったことがない。頑張らねば。そう思った。


次の日に小川先輩からどんな風にしたいかの希望を聞いた。

バレリーナのように舞って欲しいと言われた。

 無理だ 私はそう思った。実際に踊る先輩にダンスの経験はなく私も教えた経験はほぼ無い。


その日から私と風役になった和田先輩との外廊下での練習が始まった。

左を向けば住宅街が波のように並んでいる。右を向くと校庭から賑やかな声が聞こえてくる。気持ちのいい風も吹く。

私は思った。


演劇部が二人で舞を練習するには目立ちすぎる…。


案の定、この外廊下を通る先生や生徒は多かった。その度に凝視される。

だいぶ恥ずかしい。


廊下から見える部室の中では立ち稽古が始まっている。

その光景を見ながら和田先輩が

「うちらも部室でできればいいのに。」 と言ったのだ。

同じ気持ちで安心した。


その時から私は和田先輩とよく喋るようになった。二人だけなのを良いことに練習も忘れて話した。


楽しくてたまらない。


……。


甘く見ていた。


その後数週間、練習と研究を繰り返したが正解が見つからない。


正直言って、今の私は自分が何を目指しているのかがわからない。

小川先輩に呼ばれた。

「二人で風やったら?」

衝撃的すぎる発言だ。今からまた二人で舞う用に動きを作り変えるのか!

ありえない。

「ああ、その方がいいじゃん!」

主役の馬場先輩が言う。


無責任な。 私の正直な感想だった。

ずっと踊りたかったはずなのに今回ばかりは 今じゃない と感じた。


しかし、その思いは儚く消えた。

その瞬間、私は音響ではなく    風になった。

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