帰る場所


 紅葉や茶色に変色した葉が舞い散る森の中。彼女は僅かな記憶を頼りにブラブラと進んでいた。


 それとともに目に映る落ち葉を見て、時間の経過の早さに内心、驚いていた。


「もうこんなに季節が経ったんだね」

 彼女が故郷を出たのは春頃。そこから半年以上くらい時間が経過したのだ。少し前まで子孫を残そうと鳴き叫んでいた蝉達はいつのまにか、いなくなっていた。


 どこまで続くのだろう。いつ帰れるのだろう。そんな考えが頭の中を時折、過ぎるが関係ない話だ。ただ突き進む。彼女がこの旅でひたすらやってきた事だ。


 時刻は昼に差し掛かっている。暗くなる前に出来るだけ、たくさん進んでいたい。


 気ままに森の中を歩いていると目の前に巨大な沼地が見えた。濁った水源は危険だ。水中が見えにくいため、捕食者が近づいても気付けないのだ。


「できるだけ遠回りしたほうがいいな」

 沼地を警戒しつつ、別のルートを模索していると沼地から殺気を感じた。


 ウシガエルだった。彼女より一回り大きく、自分の口の入るものなら小鳥すらも捕食する生物だ。


「やっぱりね」

 するとウシガエルがずんぐりとした図体には似合わないほどの速さで飛んで来た。

 

 彼女は凄まじい速さで森の中にかけていく。辺りには空に高く伸びた樹木がたくさん並んでいる。


 木の上に登れば逃げ切る事は可能だが、どうやらその心配はないようだ。


 ウシガエルが恨めしそうな目を向けると、そのまま沼地の方に消えていった。おそらくいつも沼地に近づいてくる獲物のみを捕食しているのだろう。


「ふう」

 彼女は静かに胸をなでおろした。こんなところで餌食になるわけにはいかないのだ。


 秋を象徴する紅葉に覆われた森の景色に心を和まされつつ、ゆっくりとした足どりで進み始めた。



 数時間、休憩を挟みながら彼女は歩いた。空には既に茜色が混ざっており、次期に夜が来るという事を伝えていた。


「今日はこのくらいにしよう」

 彼女は足を止めて、近くの木陰で寝泊まりをする事にした。夜にこれ以上進むのは夜行性の生物との遭遇や視界の有無もあり、非常に危険だ。


 この旅を始めてから、自分の故郷がいかに平和だったのかを身にしみて、理解した。


 もちろん、故郷の周辺にも彼女の天敵である狸や蛇などはいるが、滅多に遭遇しないのだ。


「明日はどこまで進めるかな」


 そう考えながら、彼女は少し早めの睡眠をとる事にした。

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