第112.5話.敵の読み
――一方、遡ること数時間。
ヘルト王国軍が続々とフォンデに集結してきた頃。
そこに、午後22時ごろから始まったと言われる、リガルたちロドグリス軍による謎の攻撃からの、防衛の指揮を執っている人物がいた。
彼の名は、エオ・シュナイダー。
ヘルト王国の南部――フォンデの周辺の広大な地域を支配する、シュナイダー伯爵家の現当主である。
父である先代当主が3年前に、48歳と言う若さで亡くなってしまったため、急遽家を継ぐことになった彼の年齢は25歳と非常に若い。
さらには武勇に優れ、カリスマ性もあるエオだったが……。
「クソッ、ロドグリス王国のクズどもめ! 夜襲などという卑怯な真似を……! クソッ!」
彼は先程から自室にて、イライラとした様子を見せていた。
その理由は、彼が口にした通り、リガル達ロドグリス王国軍による夜襲である。
あの夜襲により、ヘルト王国の都市8つは、かなりの数の家屋が倒壊してしまい、復興に大金と大量の時間がかかってしまうことになった。
そしてそれを行うのは、他でもない、それらの都市を治める領主である彼である。
ついでに、もっと数時間前に編成した1000の軍勢も、2つに分けた後半の第二陣が半数以上もやられたという報告も入っている。
終わってしまったことは、仕方ないとしてもこれ以上は許すわけには行かない。
そのため、彼は必死にリガルたちを始末しようと、とにかくフォンデ近隣の都市から魔術師をかき集めたわけだが……。
「クソ、どうすればいいんだ……」
現状、彼によるリガルの討伐計画は難航していた。
その理由は非常に明快で、単純にリガルの居場所が分からないのだ。
別に、彼にリガルを倒す自信が無いとかではない。
一度、陥落した都市周辺で400ほどの敵魔術師を見つけたという話はあったが、すぐに逃げられてしまった。
今はどこにいるのか、見当もつかない。
だから、倒すも何も、まずは見つけるところからスタートしなくてはならないのだ。
しかも、早く倒さなければ、また都市を落とされて被害を受けるかもしれないから、のんびりもしていられない。
もしも、リガルたちによるこれ以上の暴挙を許せば、国王であるランドリアからどんなお咎めが来るか。
最悪の場合、爵位を剝奪されたり、首を
そんなことは、よほどあり得ないのだが、焦りと不安に駆られている今のエオには、それが高い確率で現実のものになると思えてならない。
エオは一つ大きく身震いすると、嫌な想像を振り払うように
「落ち着け。何もそんな難しいことをしようとしている訳ではない。まず敵の居場所を特定し、そこに大軍を送り込めばいいだけ。数の上ではこちらが圧倒しているんだ。やることは非常にシンプルでいい」
そう。
エオの言っていることは正しい。
その大軍を以って、何か余計なことをせず真正面から叩き潰せばいい。
何も難しいことは無いのだ。
だが……。
「そうだ! いいことを思いついた。敵が見当たらないのなら、今集めている1500ほどの兵を、いくつかに分けて捜索すればいい。それなら、分けた数だけ早く敵を見つけることが出来る」
何故か、その唯一にして最大のアドバンテージを失う方向に、思考が行ってしまう。
そして、さらに不幸なことに、彼を止めてくれる人間は誰もしなかった。
リガル達を早く見つけるという観点からすれば、その判断は間違ってはいないのだが……。
とはいえ、各個撃破される危険性を、全く理解していないという訳でもなかった。
「そして、もしも敵を見つけたら、素早く逃げればいい。それで他の部隊と合流して叩く。うん、完璧な作戦じゃないか」
先ほどの苛立った様子とは打って変わって、ニヤリと笑みを浮かべている。
彼の頭の中では、すでに理想的な青写真が描き出されているようだ。
その後、まもなくして彼はそれを行動に移すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます