第56話.攻城戦

「早く陣形を作れ!」


「しっかり3人組同士の間隔を開けろ!」


「おい、そこ1人欠けてないか?」


 隊長たちが声を張り上げ、陣形を組み上げていく。


 しかし、これまで何度も訓練で行ってきた動き。


 中世ヨーロッパの軍隊などとは、比べ物にならないほどの速度で、陣形が整い準備が完了する。


 それを確認したリガルは……。


「よし、全軍進め! ロドグリスの力を見せつけろ!」


 大きな声で進軍の命令を出す。


 それを受け、ロドグリス軍は、都市の城壁へ向かって一気に走り出した。


 数100mの距離はあったはずだが、その距離が一気に縮まり、すぐに城壁の下までたどり着く。


「よし、第1部隊と第2部隊は、後ろにある南門から突破しろ! 残る部隊は、このまま北門を攻撃するんだ!」


 思っていた以上に早く切り替わる状況に、リガルは若干面食らいながらも、ここまではしっかりと指揮を取れている。


 都市に2つある城門を同時に攻撃する作戦のようだ。


 しかし……。


「放てぇぇ!!」


 城壁の上から、怒鳴り声が聞こえる。


 何だ? と思って、リガルが上を確認すると、一斉に魔術師が顔を出す。


 どうやら、城壁の上でこっそりと隠れていたみたいだ。


 指揮官とおぼしき人物の掛け声で、一斉に魔術が放たれる。


 一瞬焦ったような表情を浮かべるリガル。


 しかし、よく見ると、自軍の魔術師で被弾している者はほとんどいない。


 城門を破壊する時も、しっかり油断せずに、攻撃役と防御役、そしてサポート役と、訓練通りの行動をしていたため、不意の攻撃でも防御することが出来たのだ。


 そして、仮に誰かが被弾してしまっても、それを立て直せるのがこの陣形の真骨頂。


 結局、被害はゼロだった。


 全員が冷静に対応できている。


(動揺したのは俺だけかい……)


 少し恥ずかしい気持ちを覚えるリガルだったが、新戦術が実践でも高い力を発揮できていることと、自軍の魔術師の優秀さに、満足する。


「よし! この程度ならば十分対処できる! このまま一気に城門を破壊しろ!」


 そして、リガルがそう叫んでから間もなく、北側の城門を破ることに成功する。


 さらに、それに続くように、南門も破って軍勢が都市内になだれ込む。


 そこからは、一方的だった。


 敵軍の数は、城壁の下からでは分からなかったが、実際は随分と少なかった。


 せいぜい100人程度の魔術師しかいなかっただろう。


 それでも、彼らは襲い来るロドグリス軍に必死に抵抗して、都市を守ろうとしたが……。


「よし、敵の指揮官は、ロドグリス軍第3部隊隊長が討ち取った!」


 しかしその抵抗も虚しく、1時間と少しで、ロドグリス軍は一つ目の都市の制圧に成功したのだった。


 ロドグリス軍の死者はゼロ。


 回復のポーション程度では治せないような重傷を負った魔術師も、一人もいなかった。


 新戦術は、絶大なる威力を発揮したと言える。


 だが、いつまでも喜びに浸っている訳にも行かない。


「よし、じゃあとりあえず適当に略奪しておけ。だが、持てる量には限りがあるから、本当に価値が高いものをしっかり厳選して運べよ」


 次の指示を出す。


 略奪と言っても、それを全て直接盗った魔術師の懐に入れていいわけではない。


 一旦リガルが集めて、後からその何割かを魔術師たちに平等に配分することになる。


 とはいえ、自分がたちの働きによって懐が潤うことになるのは間違いないので、魔術師たちは嬉々として略奪を開始する。


 リガルは、そんなものに参加するような立場でもないので、とりあえず都市にある騎士団の詰所の一番いい部屋に入る。


 本日の寝床はここだ。


 正直、普段リガルが過ごしている私室と比べると、とても良質な部屋とは言えないが、野営時に比べれば、天国と言えるだろう。


 そして、部屋で少し休みを取ろうと、ベッドに座り込んだ瞬間、どっと疲れが押し寄せてくる。


(流石に疲れたな……。すでに後の始末は将軍に任せてある。体だけ拭いたら寝るか……)


 こうして、その日は幕を閉じた。






 ーーーーーーーーーー





 ――翌日。


 薄暗く質素な室内に、窓から陽光が差し込み、リガルは目を覚ました。


 昨日は、無事都市の一つを制圧することに制圧した。


 出来れば、今日は残りの2つもサクッと制圧して、早くアルディア―ドと合流して、ライトゥームを攻めたいところだ。


 次の目標の都市までは、距離も大したことがない。


 恐らく、ここから2時間もかからないのではないだろうか。


 昨日の感じだと、他の周辺都市も、魔術師の数は多くないだろう。


「さて、食事でも取りに行くか」


 そう呟いて、ベッドから立ち上がると、コンコン、と扉を叩く音がする。


「ん? なんだ?」


 誰かと疑問に思ったが、とりあえず声を張り上げて入室の許可を出す。


「失礼します殿下。昨日将軍に、略奪が完了したと殿下に伝えてくれと言われたので、その報告に来ました」


 やってきたのはレオだった。


 昨日伝えられたのなら、昨日ちゃんと報告しろよ、と一瞬思ったが、恐らくそれはリガルが眠っていたため、やめたのだろう。


 疲れが合ったせいで、昨日就寝した時間は非常に早かった。


「あぁ、そういえば昨日はそれだけ指示してすぐ寝てしまったからな。よし、じゃあもう出発できそうだな」


「はい。……あ、そういえば、都市の中に住民は全くいませんでした。戦いになることを予期して、住民は避難させていたようです」


「避難? あー、もしかして、だから敵は打って出てこなかったのかもね。相手が馬鹿なのではなく、市民を都市から非難させていたから、出撃する時間が無くなってしまったと」


 昨日、リガル達は今いる都市を落とす前に、事前の作戦会議では、敵が布陣しているだろうと予測された丘を通ったのだが、そこには敵がいなかった。


 しかし、今ようやくその理由が分かった訳だ。


(ここの指揮官は、中々市民思いのいい人間じゃないか)


 しかし、その優しさのせいで、ライトゥーム及びその周辺都市が全てロドグリスとエイザーグの手に落ちることになるのが、なんとも皮肉だが。


「なるほど、そういう事だったんですね」


 リガルの説明に、レオも納得の表情だ。


「まぁ、そんなことは俺たちには関係ない。さ、急いで朝食を取って、次の都市に向かおうか!」


「はい」


 そう力強く言って、リガルは部屋を出る。


 レオは、それに続くのだった。

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