第57話.定石
《はじめに》
「27話にて、リガルはレオに、自身が氷の魔道具の発案者であることを明かしているのに、31話にて、リガルが氷の魔道具を発案したことを、レオは初耳であるような反応をしている」という指摘を受けました。
完璧に作者の落ち度でございます。
読者の皆様を混乱させるような、文章を書いてしまい、誠に申し訳ございませんでした。
2021年6月10日現在、修正が完了しております。
それでは、本編をどうぞ。
ーーーーーーーーーー
――バキッ。
嫌な音を立てて、木製の城門が粉砕する。
木製と言えど、そう簡単に破壊されるほど
しかし、何十発も戦闘魔術を受ければ、そう長くは持たなかった。
門によってせき止められていたロドグリス軍が、
その圧倒的な数の前に、100人弱の魔術師しか要していない敵は、なす
結局この都市も、2時間と持たずに陥落。
昨日すでに1つの都市を制圧し、今日は先ほど1つの都市を制圧しているので、リガル達ロドグリス軍が受け持った3つの都市は、これで制圧完了だ。
「よし、これで終わりか。また軽く略奪したら、さっさとライトゥームに行こう」
ここまでは、あまり歯ごたえのない戦闘ばかりだったが、ライトゥームには、恐らくそれなりの数の敵が集結している。
ライトゥームでの戦闘は、新戦術の強さをもっと生かせるだろう。
出番が全然無かったスナイパー部隊も、少しは活躍できるかもしれない。
「そうですね。しかし、にしても奇妙でしたね」
「ん? 何が?」
ワクワクとした様子のリガルとは反対に、隣では釈然としない表情を浮かべているレオ。
レオの疑問に、リガルは気が付かない。
「いや、何で敵は100人程度の中途半端な数の魔術師を、周辺都市に残したんでしょうか。100人という数は、捨てても問題ないほどの人数でもないし、かといって、残したからと言って、わが軍を止めることなど出来ない。あまりに意図が読めません」
「確かに……。普通なら、周辺都市は完全に捨てて、全軍をライトゥームに集めるよな」
リガルも、言われてみればといった具合に、レオの言葉に納得する。
さっきまでリガルは、自分の発案した新戦術が実践で役に立っていることに、気分を良くしていたため、その違和感に気が付けなかった。
しかし、言われてみると、どう考えても敵が周辺都市に中途半端な兵力を残したのは愚策である。
1つの都市に100人弱。
それが、6つもあれば、600人弱。
戦況を変えるほどの大軍である。
「ですよね。足止めとかは一応考えられますけど……」
「でも、こんな僅かな時間を稼いでも、効果はあるか? 敵だって、100人程度で俺たちを何日も足止めできるとは思ってないだろうし」
これが、もしも1週間ほどの時間を稼ぐことが出来るのならば、内乱を早めに片づけて、こちらに対応するという作戦が可能だ。
しかし、1つの都市に100程度を置いておいたからと言って、高い効果は望めない。
結局……。
「「よく分からないな(ですね)」」
結論が出ることはなかった。
「殿下。略奪は終わりました。すぐにでもライトゥームへ向けて出発できます」
すると、ちょうどレオとの話が終わったころに、ロドグリスの将軍――ハイネスがやってくる。
どうやら、出発準備が完了したみたいだ。
「よし、では早速行こうか」
(さて、張り合っているわけではないが、アルディアードは終わっているかな?)
かくして、リガル達ロドグリス軍は、任された全ての周辺都市を制圧し終え、近作戦の最終目的地である、ライトゥームへと向かった。
――――――――――
――約2時間後。
丁度午前を過ぎたころに、リガル達ロドグリス軍は、無事ライトゥームの都市の城壁が見える場所までやってきた。
しかし、アルディアードの姿は見えない。
どうやら、まだ到着していないようだ。
「これはどうやら俺の勝ちだったようだね」
新戦術が威力を発揮して、速攻で全ての周辺都市を制圧したリガルは、アルディアードよりも早く終わり、ご機嫌だ。
「はぁ、何を張り合ってるんですか?」
それに対して、少し呆れたようにレオが呟く。
「ぐっ……。いや、アルディア―ドに負けるのだけは、プライドが許さないだろ……?」
「いや、確かにアルディア―ド殿下は、ちょっと非常s……ではなく、アレなところがあるものの、普通の勉学や魔術戦闘に関しては一級品じゃないですか。殿下のプライドはどれだけ高いんですか……」
間違いなく、「非常識」とアルディア―ドを評しかけたレオだったが、流石に他国の王子なので、すんでのところで自重する。
かなり高確率でリガルの傍にいる関係上、レオはアルディア―ドともそこそこ仲が良いとはいえ、流石に同盟国の王子を貶める発言は問題だろう。
まぁ、それでも優秀さはきっちりと、認めているようだが。
「まぁそれはそうなんだけどさ……。けど、普段の態度を見てると、どうにもあいつが優秀だと認めたくないんだよなぁ……」
「はは……まあ、その気持ちは分からなくもありませんね……」
非常識だったり、空気が読めないことを除けば、アルディア―ドは非常に優秀な次期国王だと言える。
しかし、その2点があまりに致命的すぎるゆえに、どうしてもアルディア―ドがアホだという評価が抜けないのだ。
そんなリガルの言葉に、ついつい苦笑いで同意するレオ。
もしも仮に、ここにエイザーグの魔術師でもいたら、大変なことになりそうだ。
結局、アルディア―ドがやってきたのは、それから4時間以上が経過してからだった。
空が
あれは間違いなく……。
「やっと来たか。今日はもう来ないのかと心配したぞ……」
待ちくたびれた、という様子で呟くリガル。
流石に4時間も何もせずに待っているのは、退屈すぎた。
そして、アルディア―ドたちも、リガルの事を視認したのか、速度を上げてリガルの下にアルディア―ドがやってくる。
「クッソ、負けたぁ! 何時間前に着いてたんだ?」
開口一番に、アルディア―ドの口から発せられたのは、これだった。
やはり、リガルと同様にアルディア―ドも、どちらが先に都市を全て制圧できるかで、競い合っていたようだ。
「4時間前だよ。遅すぎて待ちくたびれたっての」
それに対して、呆れたような様子で返答するリガル。
しかし、言葉の節々から得意げな様子が、僅かに滲み出ている。
アルディア―ドに、無事に勝つことが出来て、満足したようだ。
何だかんだリガルも、負けず嫌いなのである。
精神年齢的には、23歳になったというのに……。
「ぐっ……4時間前……。俺の方が1つ目の都市を攻めるのが遅かったというハンデがあるとはいえ、そこまでの大差だと完敗だな……」
リガルとアルディア―ドたち、ロドグリス・エイザーグ連合軍は、エベーネの森を抜けてから、1つの都市に集合した。
しかし、2手に分かれて計6個の都市を落とす作戦であるため、その都市はどちらかの軍が担当することになる。
だから、アルディア―ドはその都市から手を引いてくれた。
都市間の距離は、大体2時間程度であるため、アルディア―ドは最初から2時間ほどのハンデを背負っていたと言える。
しかし、それでも4時間の差が付いたということは、純粋にハンデなしでも、リガルの勝ちということだ。
とはいえ……。
(俺がここまで早く都市を制圧できたのは、新戦術のお陰。だというのに、これほどギリギリだったとは……。勝ったとはいえ、そんな得意にはなれないな……)
冷静に考えると、新戦術が爆発的な威力を発揮したというのに、この程度の時間差しかついていないのだ。
これは、あまり喜べない。
そう思い、リガルは少し気を引き締めた。
「まぁだが、本番はこれからよ。ここで俺が大活躍をすればいいだけの話」
一見負け惜しみのようなセリフであるが、実際事実ではある。
周辺都市など、そんな急いで制圧する必要性はない。
大切なのは、むしろここからだ。
「あぁ、頑張れ頑張れ。だが一人で突っ込んだりはするなよ」
「それくらい分かってるわ!」
これから始まる、ライトゥームの攻城戦に意気込むアルディア―ドを、適当にあしらうリガル。
ついでに軽い挑発もする。
これから戦いが始まるとは思えないほどに、いつも通りの光景である。
まぁ、ガチガチに緊張してしまって、まともに兵の指揮を執れない、などという状況よりはマシかもしれないが。
しかし、それでも両者とも気合は十分。
かくして、リガルとアルディアードは示し合わせるでもなく、突然同時に……。
「「じゃあ、行きますか」」
そう、口にした。
「どっちの門から攻める? 北か南か。俺の方が活躍したときに、攻める門を俺が選んだから負けた、なんて言い訳されたら困るから、リガルが選んでいいぜ?」
「誰がそんな下らない言い訳するか。お前こそ、その言い訳を使ったりしないだろうな?」
「しないからさっさと選べって」
「……じゃあ、北からで」
攻める門を選ぶように言われて、リガルが釈然としない様子で、選択する。
ぶっちゃけ、こんな選択、どうでもいいので、深く考えずに適当に言う。
今いる場所の距離から近い方を選んだ方が有利とか、逆に先に攻めた方が敵の意識が集中して不利とか、若干の有利不利はあるだろう。
しかし、そんなものは本当に誤差だ。
考えてる時間すら無駄である。
そんな下らないことで、僅かなアドバンテージを得ずとも、リガルには勝利する自信があった。
「ふーん、まぁ俺もどっちでもいいけど。んじゃ、せいぜい死ぬなよ」
そう言い残して、アルディアードは去っていった。
そして、残されたリガルは……。
「よし、それじゃあ、全員陣形を整えろ!」
ロドグリス軍の魔術師全員に向けて、大きな声で宣言する。
それを受けて、隊長たちが細かい指示を出していく。
1分もかからず陣形が完成して……。
「では、突撃!」
戦いの火蓋が切られた。
リガルの声と共に、ロドグリス軍が一斉に動き出す。
が、敵もそれは分かっていたようだ。
突然、城壁の上から人影が姿を現す。
そして、魔術が飛んでくる。
まだ距離はかなり離れているから、狙えるほどではない。
しかし、1500人もの大人数となれば、狙わずとも数を打てば当たる。
そんな気持ちで打ってきたのだろうが、ロドグリス軍の魔術師は誰一人として攻撃を受けない。
部隊ごとに距離を取っているため、魔術師本来の機動力をきっちり生かして、全ての攻撃を避けていく。
防御すら必要がない。
(よしよし、やはり新戦術は完璧。さらに、相変わらずうちの軍の魔術師も優秀だ。流石は毎日訓練ばっかりやっているだけある)
ここまでは完璧。
これまでの都市と同じように順調に進んでいる。
そして、城壁の下までたどり着いた。
後は、高威力の魔術で、城門を破壊するだけである。
この様子なら今度もあっさり行けるのではないか。
そんな油断がリガルの頭に浮かんだが……。
「アースウォールを使え!」
その瞬間に、敵の指揮官らしき人物の声。
それと共に、城門の前に岩壁が現れる。
ロドグリス軍の魔術師が放ったファイヤーボールの魔術は、岩壁に阻まれて霧散する。
(なるほど。アースウォールを自分の防御のために使うのではなく、城門を守るために使うのか)
これまでとは一味違う敵の抵抗に、リガルは素直に感心する。
しかし……。
「なぁ、レオ。この戦術は、敵の指揮官が今思いついたのか?」
リガルはそれを見て、ある一つの疑問を抱く。
「いえ。普通に昔からよくある、攻城戦の定石ですね」
「だよな。じゃあさ、なんでこれまでの都市にいた敵は使ってこなかったんだ?」
定石ならば、少しでも戦術をかじっている人間ならば知っているはずだ。
だったら、使ってくるはずではないのだろうか?
「うーん、それは恐らく、これまでは敵の数が少なかったからでしょう。ほら、城壁の上を見てください」
レオに促されて、リガルは城壁の上に目をやる。
「ほら、よく見ると、我々ロドグリス軍のように、前列に防御役、中列にアースウォールで城壁を守る役、そして、後列に攻撃役、と役割分担を行っているでしょう」
言われてみると、確かに3段階になって、それぞれ列ごとの魔術師が違うことをやっている。
それはさながら、織田信長が長篠の戦で使った、鉄砲の三段撃ちの様だ。
まぁ、あれは嘘であるという説が、今では有力だが。
「しかし、これには人数が必要です。100人程度しかいなかった昨日や午前中に制圧した都市では、不可能でしょう」
確かに、この戦術を執るには、アースウォール役、攻撃役、防御役の3人が必要になる。
つまり、100人程度では、30組ちょっとしか作れないことになる。
そして、門は2つあるため、さらに兵数が半分になることを考えると、15組。
しかし、アースウォールで城門を防御するには、1発では足りない。
岩壁を複数並べなければ、城門のすべてを囲むことは出来ない。
さらに、岩壁の強度は低くはないが、それでもファイヤーボールを数発受ければ、すぐに粉砕されてしまう。
そのため、何重かにしなくてはあまり効果がない。
むしろ、攻撃の手が減る分、悪手となってしまうだろう。
「なるほどな。これまでに制圧してきた都市の指揮官が、アホだったって訳ではないのか」
「まぁ、そうですね。で、どうやって突破しますか?」
納得したリガルに、打開策を尋ねるレオ。
それを受けて、少しだけリガルは考え込むそぶりを見せると……。
「いや、特に策は無いかな。相手の防御が硬いことは分かったけど、敵が守ってるだけなら、こちらの損害はない。現状維持で良いだろう。その代わり、鍵になってくるのは、レオ、お前たちスナイパー部隊だ」
そう言ってリガルは、レオを見ると、不敵に笑った。
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